2001年9月11日に発生した米同時多発テロ事件で、ニューヨークの世界貿易センターでは2606人が死亡、6千人以上が負傷した。このテロ事件では、崩れ落ちる同センターに巻き込まれ、近くにあった聖ニコラス・ギリシャ正教会も完全に崩壊する被害に遭った。今秋、事件発生から20年を迎えるのを前に、紆余曲折を経た同教会の再建も目の前に迫っている。
2019年に設立された同教会の再建支援団体「聖ニコラス友の会」によると、寄付などにより今月初めまでに、計9500万ドル(約104億円)の資金調達に成功。このうち5500万ドル(約60億円)は昨年1月以降に調達しており、特にこの2カ月間だけで850万ドル(約9・3億円)以上が集まったという。
聖ニコラス友の会のデニス・メヒエル会長とマイケル・プサロス副会長によると、教会の外装は事件発生20年となる今年9月11日までに完成する見込みだという。
「エルピドフォロス大主教が在米国ギリシャ正教会の指導に当たるようになってから、多くの寄付が寄せられています。聖ニコラス友の会が資金調達や工事完了までの管理、聖堂への募金を担当したことで、このような目覚ましい寄付が実現したのです」
一方、両氏によると、イコンなどをあしらった教会内の内装は来年まで作業が必要で、来年のイースターまでには完成させる計画だという。
また今年11月2日には、東方正教会の霊的最高指導者である全地総主教バルソロメオス1世(コンスタンティノープル総主教)が訪問し、開所式を執り行う予定だ。バルソロメオス1世の公式訪問は、総主教就任30周年と在米国ギリシャ正教会設立100周年を記念して行われる。
「私たちは、米国のギリシャ正教会コミュニティーによる献身がまったきものであることを、すべての同胞市民に知ってもらいたいのです」と両氏は言う。「同時多発テロ事件で破壊された唯一の礼拝所である聖ニコラス・ギリシャ正教会の再建を確実なものとしたいと願っています。この建物は慰霊聖堂として使われることになるでしょう」
教会再建の取り組みは、再建場所をめぐる論争をはじめ、過去数年間にわたって複雑化してきた。2011年には、再建場所をめぐって教会側がニューヨーク・ニュージャージー港湾局を提訴。両者は同年、かつて教会のあった場所に近いリバティストリート130番地に、無宗派の慰霊施設を備えた教会を再建することで合意した。
その後も、在米国ギリシャ正教会の一連の管理・財政危機により、2017年から19年8月まで再建プロジェクトが一時中断。総工費も当初の見込みより数百万ドル(数億円)上乗せされることが予想されている。
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は建設再開を記念して行われた式典で、教会再建は「すべてのニューヨーク市民と米国民に対する力強いメッセージ」だとし、次のように語った。
「同時多発テロ事件から立ち直ったのと同じように、私たちは(教会を)再建することになるでしょう。そしてそれは、これまで以上の連帯感と信仰心、コミュニティー精神によって、より良いもの、より堅固なものとなるでしょう」
「私たちはこれまで共に困難な時期を乗り越えてきました。しかし、これからは灰の中から立ち上がって、これまで以上に強くなるのです。この聖ニコラス聖堂はそれを象徴するものです」