全米最大の福音派養子縁組・里親支援団体「ベサニー・クリスチャン・サービス」(BCS、ミシガン州)が1日、LGBT(性的少数派)のカップルにもサービスを提供すると発表したことを受け、米国内の福音派指導者からは相次いで失望の声が上がった。
BCSはこの日、LGBTのカップルも養親や里親の対象とすると発表した。BCSのネイサン・ブルト上級副会長はクリスチャンポストに寄せた声明で、BCSの使命の「中心」はイエスに対する信仰であることを表明した上で、「クリスチャンが同意しないさまざまな教義上の問題について、特定の立場を取ることはない」と述べた。今後は、LGBTのカップルに協力した前例がない支部の従業員も含め、全従業員に対し訓練を行うという。
BCSは「子どもたちを保護し、若者に力を与え、質の高い社会的サービスを通じて家庭を強化することにより、イエス・キリストの愛と憐(あわ)れみを示す」ことを活動の目的としているが、今回の発表はBCSが福音派の団体として変化しつつあることを示している。
BCSのウェブサイトによると、BCSには32州に支部があり、2019年には全米で3406件の里親委託と1123件の養子縁組を実施した。また基本理念には、新約聖書から「はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」(マタイ25:40)を掲げている。
今回の決定に対し、福音派の指導者らは相次いで遺憾の意を表明した。
南部バプテスト神学校のアルバート・モーラー学長は2日、自身が運営するポッドキャスト「ブリーフィング」(英語)で次のように述べた。
「道徳革命家たちは、今やこの社会のあらゆる個人、あらゆる機関、あらゆる学校、あらゆる宗教の宗派・教派、あらゆる養子縁組・里親支援団体に対して、方針の転換を迫っています。(中略)今回の場合、それ(方針の転換)は降伏を意味しており、性的少数派の要求に完全に屈することを意味しているのです。つまり、私たちは今、米国では政治的左翼が一般化されたと言っているようなものなのです」
「結婚や家庭、人間の性とジェンダー、また政府に関して、キリスト教的理解に徹してきたベサニー・クリスチャン・サービスをはじめ、(キリスト教)機関の間で真っ向から意見が対立しているのを私たちは目の当たりにしているのです」
政府との連携を維持しようとするあまり、BCSは「キリスト教が信念とすべき分野」を放棄してしまったとモーラー氏は指摘する。
「クリスチャンは理解しておかなければなりません。皆さんが結婚(という概念)を定義し直しているとしたら、また親や家族を定義し直しているとしたら、それは文明を定義し直しているのです」
米保守派キリスト教団体「フォーカス・オン・ザ・ファミリー」のジム・ダリー会長はツイッター(英語)で、「ベサニー・クリスチャン・サービスは、深く根付いた宗教的信念を守るか、子どもたちや家庭に奉仕するかの二者択一をする必要はないはずです」と指摘。その上で「政府は、いかなるミニストリー団体に対してもその運営方針に口出しすべきではありません。ミニストリー団体が堅持する聖書的原則に反するようなことは言うまでもありません」と続けた。
サウスイースタン・バプテスト神学校のダニエル・アキン校長はツイッター(英語)に、BCSの決定は「文化的圧力に対する屈服であり極めて遺憾です」と投稿。「子どもたちが必要としているのは、健全で聖書的な家庭の父親や母親です。神の言葉は明解です」と述べた。
「多くの人と同様、私もこの決定に失望しています」。米プロテスタント最大教派である南部バプテスト連盟の倫理宗教自由委員会で委員長を務めているラッセル・ムーア氏は、米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)にそう言い、「この動きは、キリスト教主義の孤児救済団体がキリスト教の核となる信念において屈服することなく弱者に奉仕することを可能にしている既存の取り組みに弊害をもたらすことになるでしょう」と語った。
BCSはこれまで、LGBTの養親候補や里親候補を他の支援団体に紹介していたが、ミシガン州における法廷闘争の結果を受け、2019年からは同性カップルにも里子を振り分けるようになっていた。
BCSは当時、判決のいかんにかかわらず信念は変わっていないと表明。「当団体は、ミシガン州においても当団体の法的契約要件に従って事業を継続します。ベサニー・クリスチャン・サービスの使命と信念は変わっておりません」とし、「私たちは困っている子どもたちに奉仕することによって、イエス・キリストの愛を示すことを主眼としています。ミシガン州でもそうし続ける所存です」と述べていた。