上方落語の大御所といわれた故・二代目露の五郎兵衛の長女で、福音落語家として活躍する露のききょうさんらが出演する「ミニ・ゴスペル落語会」が7日、大阪クリスチャンセンターOCCホール(大阪市)で開催された。新型コロナウイルスの影響で例年6月ごろの開催時期をずらし、定員も本来の300席から100席に減らして「ミニ」としたが、初の試みとしてオンラインでのライブ配信に挑戦。露のききょうさんは芸能生活40年と落語生活20年の記念の会でもあり、古典落語と福音落語の2席を披露し、会場は笑いに包まれた。
福音落語は、露のききょうさんの父で師匠でもある露の五郎兵衛が、教会の敷居を下げ、一人でも多くの人にキリスト教のことを知ってもらおうと開拓した分野。父の召天後、露のききょうさんは日本で唯一のプロの福音落語家として演目を増やし、大阪クリスチャンセンターとの協力により、落語好きの牧師や信徒を集めて2014年からこの会を始めた。すでに初夏恒例の会として定着しており、ファンからの熱い要望に応えて東京でも4年前から度々開催している。
この日は、露のききょうさんのほか、常連メンバーの中から、ききょうさんの双子の妹で「おしゃべり賛美家」として活躍する菅原早樹さん(単立西宮北口聖書集会教師)、祝福亭一麦さん(活けるキリスト一麦西宮教会牧師、本名・坂口将人)、太神楽(だいかぐら)曲芸師でクリスチャンの豊来家(ほうらいや)大治朗さんの4人が出演した。
露のききょうさんの1席目は、物知りのご隠居さんから聞いた「鶴の名の由来」を、自分をばかにする仲間に話して驚かせようとする古典落語の「つる」。「首長鳥の雄(おん)が『つー』と飛んできて、浜辺の松へ『る』と止まったんや。その次に雌(めん)が・・・」。冗談を間に受けて仲間に意気揚々と話し始めたものの、最後まで話が続かずに果ては泣き出してしまうというおっちょこちょいぶりとききょうさんの絶妙な掛け合いに、マスクを着けた客から何度も笑いが漏れた。
菅原早樹さんは「こんな時代だからこそ」と、賛美歌「主イエスのみそばに」を賛美。続いてオリジナル賛美「主イエスの愛と恵みによって」と、賛美歌「歌いつつ歩まん」の歌詞を若い人にも歌いやすいように再翻訳した「歌いながら行こう」の3曲を歌い上げた。
祝福亭一麦さんは、現役牧師らしく信徒からの人生相談を牧師が受ける場面から噺(はなし)を始めた。自分の条件に合った職が見つからずに悩む若い男性信徒に、牧師はなぜか動物園の檻(おり)の中で一日中トラのふりをするという奇妙な職を紹介する。男性はしぶしぶ紹介状を受け取って動物園へと向かい、とりあえずトラの皮をかぶって檻に入るが・・・。ぎこちない「トラ」と、それでも本物と信じ込む来園者とのやりとりを面白おかしく演じると、会場は笑いに包まれた。
次に、軽快な囃子(はやし)の音と共に舞台に登場したのは、太神楽曲芸師の豊来家大治朗さん。片手に和傘を持ち、まりを上に放り投げると、傘の上でまりが勢いよく回り始めた。金輪や四角いマスの傘回しや、顎と額にそれぞれバチを立て、顎の上のバチに乗ったまりを、手を使わずに額の上のバチに移動させるバランス芸など、難易度の高い曲芸を次々と披露した。最後は、日本で唯一、大治朗さんしかできないという軽業「剣の輪くぐり」を披露。8本の剣の刺さった輪の中を見事くぐり抜けると、一際大きな拍手が上がった。
トリの福音落語で露のききょうさんは、お伊勢参りに行く若者2人が悪いキツネに何度もだまされるという演目「七度狐(ぎつね)」に福音のメッセージを取り入れた。2人が夜道で山寺を見つけ、尼さんに一夜の宿を求める場面では、代わりに教会とシスターが登場。下の村でその日亡くなった高利貸しの老婆が化けて出るという設定だが、シスターはその老婆も死ぬ直前に熱心なクリスチャンの息子の影響で信仰を持ったと話し、「私たちクリスチャンというのは、死んですべて物事が終わりというのではなくて、死んだら天国、神様のみもとに帰るということになっておりまして」と2人に説明し出す。幽霊に化けたキツネに2人が伊勢音頭を歌わされる場面では、「ここは教会やさかいにな、賛美歌歌え〜」。若者2人のとぼけた掛け合いが、会場の笑いを何度も誘っていた。
露のききょうさんは、「やっていいものかどうか悩みましたが、結果的に言うと、やってよかったかな、と思います。ご覧いただいた方も、演じる方もいろいろな思いが交錯する中、みんなが楽しめた会だったと思います」と話す。「特にライブ配信は、東北からご覧くださった方もあり、普段ご覧いただけない方にも見ていただける良い機会だったと思います。来年も、どういう形になるか分かりませんが、ぜひまた開催して、クリスチャン以外の方や若い方にも、もっともっと見ていただきたいですね」と意気込みを語った。