大阪クリスチャンセンター(大阪市中央区)で6月27日、クリスチャンの女性落語家、露のききょうさんと牧師・信徒による競演「ゴスペル落語会」が行われ、約240人が聖書や教会をテーマにした落語を楽しんだ。
聖書の話を上方落語に
前座は、祝福亭一麦さん(坂口将人=活けるキリスト一麦西宮教会牧師)による福音落語『ヨナ書』。神様に逆らい大魚に飲まれてしまったヨナは悔い改め、初めて真剣に神に呼び掛ける。
「神様、えらいすんまへんでした。助けてください!」
すると神様は応える。
「ほな、助けたろか。そこの魚のイボ押したら助かるで」
「イボでっか? まええわ、押してみよ」
神を信じて魚のイボ(?)を押すと、ぴゅーっと外に吐き出されて救われたヨナに神様は呼び掛ける。
「ほな、ニネベ行ってくれるか?」
「行きたないなぁ。でも神様との約束やからなぁ・・・」
ニネベにたどり着いたヨナは人々に必死で訴える。
「あんたらそんな悪いことしてたらあかん。あかんて! みんな滅びるでぇ!」
すると人々は・・・。
大阪弁で交わされる会話に、会場からは爆笑の渦が沸く。最後にヨナは神様に一つだけ願いがあると話す。「とうごまじゃなくて、孔雀草をはやしてください。孔雀草は可憐な花、枯れん花でございますから」。地口オチのサゲに会場からは大きな拍手が沸いた。
続いて、ゴスペル亭パウロさん(小笠原浩一=和歌山ゴスペルライトセンター教会員)は『ザアカイ急いで降りて来なさい』を、大川亭栄華さん(朴栄子(パク・ヨンジャ)=豊中第一復興教会牧師)は、間抜けな喜ぃ公(きぃこう)の嫁取り物語、古典落語の『延陽伯』を熱演した。
笑福音亭シオンさん(本名:安達隆夫=大阪シオン教会牧師)の『信じる者は救われる』では、ドジな泥棒2人が、留守の家を物色しているうちになぜか教会に迷い込む。「何か悩みがおありですか?」「ちょっとお話聞いていきませんか」と牧師に聞かれて、人生相談をすることに。2人の素性を知らずに語られた「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる」という聖書の言葉に励まされ、空き家を見つけ盗みに入った2人の運命は・・・?
続いて福音亭ぱすたさん(渕野弘司=大津福音自由教会牧師)は、ペトロの手紙一5章7節の「思い煩いは、何もかも神にお任せしなさい」という言葉を紹介した後、五代目春風亭柳昇の人情物語『里帰り』を演じ、クリスチャンの3人組コミックバンド「ZIP CODE 604」は、フィンランドの賛美歌の音に合わせて、イエスと出会ったシモンの物語を歌った。
トリは、今回の出演者では唯一のプロの落語家、露のききょうさん(新居由樹=忍ヶ丘キリスト教会員)の福音落語『聖書女人抄』。ある教会で新米信徒とベテラン信徒の2人の女性が、クリスマス会の出し物を何にしようかと相談している。
「毎年生誕劇はおもろないな。昼メロ風にドロドロした話はどない?」
「それなら聖書にあるで、ヘロデとヘロディアの物語言うてな・・・」
「やっぱり、ハリウッドばりの美女と英雄の出てくる大スペクタル風に!」
「それなら聖書にあるで、サムソンとデリラの物語・・・」
「いや、やっぱり渡る世間は鬼ばかりみたいな嫁姑のホームドラマがええわ」
「それもまたあるで、昔々、ルツとナオミという嫁姑がおりまして・・・」
張り扇で見台をパン!パン!とたたきながら、講談調の迫力のルツ記の物語が続くと、またまた会場は爆笑の渦に。あっという間に3時間が過ぎた。
この日、落語を披露した5人の牧師・信徒のうち2人は学生時代、落語研究会に所属、3人は大阪の天満天神亭繁昌亭落語家入門講座や、落語ワークショップを受講してこの日のために研さんを積んできたという。
落語と説教の共通点とは? 上から降りてくる噺(はなし)のネタ
打ち出し後、福音亭ぱすたさん(渕野弘司牧師)に話を伺った。「ぱすた」の高座名は、英語の「pastor(牧師)」から。子どもの頃から落語が好きで、現在も落語をする牧師として、教会や福祉施設でも噺(はなし)をするほか、毎年大阪で行われる「社会人落語日本一決定戦」にも出場している実力派だ。
「落語と説教は、話すということで通じるものがあるか?」と伺うと、「ここで間を取る、少しためるとか、意識するところでしょうか。聖書の世界というと、ずっと昔の遠いかけ離れた世界のように思われがちだけど、ちょっとしたしぐさや描写を入れるだけでも、聞く側に人物や情景のイメージが広がり、伝わりやすくなると思うんです」
笑福音亭シオンさん(安達隆夫牧師)は、240人を前にしてさすがに緊張したと言う。大仕事を終えてほっとした表情で、「笑いがないと不安になりますね。やっぱり関西人だからかな」と頭をかく。普段は牧会の仕事に追われ、練習する時間も取れないが、「降りてくるというか、与えられるんですよね」と、噺のネタはたくさんあると言う。
父娘二代のクリスチャン落語家の露のききょうさん
このゴスペル落語、実は今回が2回目。女優や落語家として、テレビ、舞台などでも活躍している露のききょうさんが中心となって始まった。ききょうさんは、戦後、上方落語の復活と隆盛に大きく貢献し、上方落語協会会長などを務め、紫綬褒章、旭日小受綬章を受章した故二代目露の五郎兵衛(1932~2009)さんの長女。双子の妹さんと両親の一家そろってのクリスチャンだ。父の露の五郎兵衛さんも、晩年は聖書の「放蕩(ほうとう)息子の帰還」を翻案した『蘇生の息子』という福音落語を創作している。
ききょうさんは、同僚のプロの落語家と共に大阪クリスチャンセンターで寄席を行っていたが、昨年6月に知人の牧師4人と元腹話術師の牧師と共に、初めて「ゴスペル落語」を行った。「正直、落語はアマチュアの牧師先生で大丈夫なのか、受け入れてもらえるのか、と心配だったんですけど(笑)」と語るが、これが大好評で「またやってください」という声が相次ぎ、今回2回目の披露となったという。
「聖書というと、知らない方は堅いイメージがあるけれど、落語という古典芸能のスタイルで語ると、クリスチャンではない人にも伝わりやすくなるんですよね」とききょうさん。約240人を数えたこの日の客のうち、クリスチャンではない人も2、3割はいたという。「キリスト教に触れたことがない方にも分かるように説明を入れたりしています。福音とは“良き知らせ”。ゴスペル落語をきっかけに、少しでも聖書の教えを聞いてもらえたらいいなと思ってやっています」と話してくれた。
気になる3回目の予定を伺うと、「まだ決まってないんですけど、ぜひ東京でもやりたいと思っています。協力してくれる教会があればぜひやりたいですね」とのこと。ぜひ、東京でもゴスペル落語のお披露目があることを祈りたい。
ゴスペル落語については、露のききょうさんブログまで。露の五郎兵衛さんの福音落語『蘇生の息子』などを収録したCD『生涯未完成』も販売中だ。