教会堂は、キリスト教会が礼拝や賛美をささげるための建築物として、長い歴史の中で伝統的な構造や建築法が受け継がれ、高い位置に十字架を掲げた教会堂らしい建築物のイメージが多くの人の中に定着しています。
一方、キリスト教会は共同体(コミュニティー)を示し、建築物である教会堂とは明確に区別されています。新約時代のキリスト教会には、今のような立派な教会堂はありませんでした。聖書によれば、信仰によって集う共同体そのものが教会ですから、野外でも家庭の一室でも、その場の集まりが教会になります。
現在私たちが抱いている美しい教会堂のイメージは、聖書に記されたものではなく、主に欧米の教会史を通して時間をかけて形作られ、貴重な文化遺産として継承されてきたものです。
キリスト教結婚式が作り上げた教会堂への憧れ
欧米文化に憧れを持つ日本人にとって、かつての欧米の思想、技術を用いて精巧に建築された美しい教会堂は、欧米の伝統文化に触れる貴重な存在として高い人気を維持しています。さらに、日本において1960年ごろ、人気のアイドルや芸能人がキリスト教結婚式を取り入れ始めたのが契機となり、キリスト教結婚式の人気が急浮上したことは、教会堂への憧れを一層育むことになりました。
それ以降、美しい教会堂、幻想的なステンドグラス、祭壇まで続く長いバージンロード、会場内に響き渡る賛美歌の歌声など、神聖な空間で執り行われるキリスト教結婚式は、日本人に最も受け入れられる結婚式のスタイルとして定着してきました。
これらの人気を支えているのは、キリスト教会ではなく、ホテルや結婚式場を拠点とする冠婚葬祭事業者です。当初彼らは、美しい教会堂を所有するキリスト教会と連携を持っていましたが、今では欧米文化の流れを汲む教会堂(チャペル)を自ら所有して事業を行うようになりました。それらの教会堂は、キリスト教会とは無縁のものですが、そこで行われる挙式内容は、キリスト教信仰を土台とした伝統文化を受け継いでいます。
教会堂で葬儀をしたい人々が増加する
一方、葬儀においては、江戸時代初期に設けられた檀家制度以来、仏式の葬儀文化が延々と継承されているため、キリスト教葬儀の割合は2%程度に留まっています。
それでも、日本人のキリスト教人口比率が1%程度ですから、信者以外にもキリスト教葬儀を希望する人が次第に増える傾向にあります。さらに、核家族化の影響により、今後、家の宗教と疎遠になる世代が増えることや、キリスト教結婚式に関わった世代がエンディングに向かいますので、キリスト教葬儀の比率は一段と増加すると予想しています。
その際、キリスト教葬儀を希望する根拠となるのが、結婚式と同じように欧米の伝統文化を反映した美しい教会堂のイメージにあることを心に留めたいと思います。美しい教会堂、永遠の世界を連想させるステンドグラス、天国への旅立ちをイメージさせる出棺時には、会場内に賛美歌と鐘の音が響き渡ります。このような希望に満ちた葬儀式は、天国への凱旋式にふさわしいものとして、やがて日本に定着していくと予想しています。
教会(共同体)に関わりたいわけではない
ここで、私たちが注意すべきことは、結婚式や葬儀の会場として教会堂を利用したい人々の多くは、キリスト教会(共同体)に関わりたいと願っているわけではないということです。共同体を大切にし、その中で生きる日本人の多くは、教会に興味を示しつつも、一定の距離を持ちたいと考えています。共同体の中に必ず存在する気遣いやしがらみを、重々承知している故なのでしょう。
それでも、欧米文化に育まれた教会堂に憧れる彼らは、結婚式や葬儀の会場として利用し、長年キリスト教会の中で積まれてきた多くの人の祈りの姿勢に倣おうとしているようにも思います。
まず美しい教会堂を使っていただこう
私たちは、そのような日本人をよく理解し、まず、美しい教会堂を結婚式や葬儀の会場として使っていただき、建築物や式典を通して彼らに寄り添っていきたいと思います。人生の節目の大切な通過儀礼に対し、美しい教会堂を通して心を込めて寄り添うなら、やがて、その教会堂を利用するさまざまな教会(共同体)を形成する機会が生まれてくるでしょう。
願わくは、地域教会が連携してこのような美しい教会堂を建築し、地域住民の通過儀礼を執り行う拠点を作り上げてほしいと思います。
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