人は健康な時には、自分の死のことを忘れて生活していることが多いものですが、死が迫ってくると、人生の意味への問い、生きている目的や過去の出来事に対する後悔、死後の世界への恐れなどから苦悩を持つことが多くなります。このような苦悩をスピリチュアルペインと呼んでいます。
終末期医療を行う病院、老人介護施設、障害者介護施設、ホスピスなどでは、このスピリチュアルペインへの対応が少なからず必要になり、さまざまな取り組みが報告されています。
身体的、社会的、精神的苦悩との関係
このスピリチュアルペインは、身体的、社会的、精神的な苦悩と区別されていますが、単独で存在するのではなく、他の苦悩と相互に影響し合い、トータルの苦悩を増加させます。また、身体の死が迫る中だけでなく、社会の中で孤立した時や、精神的な病に陥った時などにも顕在化します。
若い人でも、身体的には健康であっても、社会に適応できず孤独に陥るなどを契機とし、背後にあるスピリチュアルペインが症状を悪化させることもあります。
「傾聴」はスピリチュアルペインを共に担う
このスピリチュアルペインは、人の存在に関わる苦悩ですので、論理的な解決法がなく、完全に克服することは困難ですが、周囲の人々が「傾聴」を繰り返すことで、自己受容が進み、症状が改善するといわれています。
ひたすら耳を傾ける「傾聴」を通して、心の痛みをありのままに受容する姿勢が示され、心の中に潜むスピリチュアルペインを寄り添う人と共有できる効果が期待できるからです。
一方、「傾聴」を行う人にとっては、相手のスピリチュアルペインを共に背負うことになるため、忍耐を必要とする負担の多い作業になることもあります。
質の高い「傾聴」を組織的に展開したい
本来、人は自己本位に生きてしまいがちですので、相手の立場に立って共感する「傾聴」を苦手としています。たとえ相手を思いやる気持ちがあっても、自分の立場から行う判断、説明、同情などは効果を損ねる要因になります。
この4月に発足した「善き隣人バンク」は、「傾聴」の働きを継続、拡大、展開するための人材、能力、情報、資金、連携を擁する非営利のネットワークを目指しています。
人が単独で「傾聴」の働きを継続するのは難しいことですが、組織的な働きにすることで、質の高い「傾聴」を全国に展開したいと願っています。
「善き隣人バンク」基本綱領
「善き隣人バンク」では、今後多くの経験を重ね、「傾聴」マニュアルを更新し続けていきますが、発足に当たり、まず基本綱領を定め、「傾聴」の基本姿勢を定めました。以下に示します。
聖書の言葉が「傾聴」の働きの根底にある
この基本綱領の冒頭に「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい」という聖書の代表的なことばを記しています。「傾聴」の基本姿勢は、天地を造られた神様から注がれる隣人愛です。それは、人の弱さをまとったイエス・キリストが与えてくださった、対価を求めない無条件の愛を示しています。
私たちの内には「善き隣人」にふさわしい隣人愛を見いだすことはできません。私たちの本質は自己本位です。しかし、私たちを通して神様が悩める人々に寄り添ってくださるなら、イエス・キリストの無条件の隣人愛が、多くの人の心の痛みを癒やしてくださるでしょう。
願わくは、キリストがすべての人に命懸けで寄り添ってくださったように、私たちも、多くの人の「善き隣人」にさせていただきたいと思います。
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