日本キリスト教協議会(NCC)は5日、福島第1原子力発電所の処理水を海洋放出する政府の計画に反対する抗議文(10月31日付)を公式サイトで発表した。地元福島県の漁業関係者などが反対していることに触れ、計画を撤回するとともに他の解決方法を模索するよう求めている。抗議文はまた、10月24日に50カ国・地域が批准し発効条件が整った核兵器禁止条約にも触れ、唯一の戦争被爆国である日本も直ちに批准すべきだと訴えている。
福島第1原発では、東日本大震災に伴う原発事故で発生した大量の汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した処理水が貯蔵タンクで保管されている。ALPSは62種類の放射性物質の除去が可能とされているが、水溶性のトリチウム(三重水素)は除去ができない。貯蔵タンクは2022年9月には満杯になると予想されており、トリチウムを含む処理水の処分方法として、政府は小委員会の検討を踏まえ、国内外で実績のある海洋放出を選択する方針で固めようとしている。
こうした状況の中、NCCは抗議文で、漁業関係者をはじめ地元の福島県では反対意見が多く、全国漁業組合も反対決議を採択していることや、ALPSを使用してもトリチウム以外の放射性核種が一定の濃度で残存するなど7つの理由を挙げ、海洋放出に反対を表明。「海洋放出は、無制限に汚染の範囲を広げてしまいます」などと訴えている。また、汚染水処理案をまとめた政府の小委員会には、脱原発派のメンバーが含まれていないと指摘。「それでは原子力推進に問題の生じない案に帰結するのみで、最善策は採択されません。改めて、協議組織を公平な構成で設置してください」と求めている。
核兵器禁止条約については、唯一の戦争被爆国として、その歴史を風化させることなく、核のない世界を呼び掛ける礎として、「何も躊躇(ちゅうちょ)することなく、直ちに批准の手続きを推し進めていくべき」と主張。それが憲法9条の精神が指し示す道だとし、「日本政府はその精神に立脚し、東北アジアと世界に向かって、平和外交のイニシアチブを取ることが期待され、またその責任を負っている」と述べた。
また広島地裁が今年8月、広島原爆投下直後に降った「黒い雨」を、国の援護対象区域外で浴びた住民84人についても被爆者と認める判決を下したことについて、国が控訴に踏み切ったことは「許しがたいこと」と批判。被爆者の長年の訴えを踏みにじる行為だとして、控訴の取り下げを強く求めた。
抗議文は、NCCの金性済(キム・ソンジェ)総幹事のほか、平和・核問題委員会の内藤新吾委員長、靖国神社問題委員会の星出卓也委員長、アジアの和解と平和委員会の飯塚拓也委員長、教育部の比企敦子総主事の連名で、菅義偉首相に宛てて出された。