米国の保守派内を中心に台頭する政治陰謀論のムーブメント「QAnon(キューアノン)」について、同国の福音派指導者らが「政治的カルト」などと呼び、非難している。
「QAnon」とは「Q Anonimous(匿名人物Q)」の略称で、2017年にオンライン上の匿名人物Qによって始められた。ドナルド・トランプ大統領が、悪魔を崇拝する「ディープ・ステート(影の政府)」と戦闘状態にあり、エリート主義の小児性愛者や悪魔主義者などの集団と闘っていると主張したり、このディープ・ステートには大物セレブも含まれていると主張したりしている。
発足以来、キューアノンは福音派の一部や保守派の間で支持を集めてきたとされている。また最近では、ジョージア州議会の議員候補者やオレゴン州選出の上院議員候補など、著名な支持者も獲得している。
マイク・ペンス副大統領は21日、出演した米CBSのニュース番組で、キューアノンについて尋ねられ「何も知らない」と答えるとともに、「オンライン上の陰謀論だ」と一蹴した。しかし副大統領への質問に登場するほど、キューアノンは存在感を強めている。
キューアノンに対しては、南部バプテスト神学校のアルバート・モーラー学長ら複数のキリスト教指導者らが批判の声を上げている。
モーラー氏は24日、自身のポッドキャスト(英語)で、キューアノンやその他の陰謀論をキリスト教初期に台頭した異端的思想であるグノーシス主義になぞらえた。
「グノーシス主義とは、少数のエリートや特権階級だけが内部情報を理解し、知り得るという思想です」とモーラー氏。「古代グノーシス派は、この約束された特定の情報が何であれ、その秘密の知識が救いや悟りの鍵だと信じていました」と説明した。
「キリスト教は、この秘密の真理と何の関係もありません。それ(キリスト教)と大いに関係があるのは万人のための福音です」とモーラー氏は続け、「クリスチャンには秘密の教えなどありませんし、この世に隠す信条もありません。私たちは、秘密の知識を知ったから救われたわけではありません」と語った。
キリスト教のライフスタイルをテーマにした隔月誌「レレバント・マガジン」のタイラー・ハッカビー編集長は、キューアノンの主張は「こじつけ」であり、「持論を支持する情報だけを集めること」によって支えられていると、8月3日付の論説(英語)で述べている。
また、キューアノンは「文化戦争の論理的延長」であり、「『モラル・マジョリティー』(米保守派キリスト教政治団体)の台頭に伴って人気を博した『私たちVSあの人たち』思考をベースにして、実際の陰謀とさまざまな用語を付け加えたものだ」と論じている。
「キューアノンに関して成し得ることを簡潔に答えることはできない。(中略)しかし、クリスチャンが陰謀論に対してあまりに心を開き過ぎているように見える事実は、信仰の人々による世界観の流布の仕方の中に深く崩壊した何かがあることを明示している」
「キリスト教が奉仕の機会としてではなく文化戦争と見なされるなら、一般の人々は愛を必要とする存在ではなく、恐れ怪しむべき敵と見なされてしまう」とハッカビー氏は続けた。
執筆家であり牧師のジョー・カーター氏は5月、福音派のネットワーク「ゴスペルコアリション」のサイトに投稿したコラム(英語)でキューアノンを非難した。
マクリーン聖書教会アーリントンキャンパス(バージニア州)の牧師を務めるカーター氏は、キューアノンは「政治的カルト」であり、「世界の教会に(脅威)をもたらす」「悪魔的ムーブメント」だとしている。
「キューアノン運動は、ヤコブが悪魔的振る舞いと呼ぶ中傷に頻繁にいそしんでいる(ヤコブ3:15~16)。キューアノン運動は、しばしば偽りを売り物にしている。イエス様は、偽りはサタン(偽りの父)から来るものだと教えている。キューアノン運動は悪霊の知恵を受けた偽りに繰り返し加担しているが、この偽りのおかげで、口先だけのクリスチャンと忠実なクリスチャンが分別されている」とカーター氏はつづっている。
「また、キューアノン運動には悪を善と呼び、善を悪と呼ぶ傾向があり、闇を光とし、光を闇とする傾向がある(イザヤ5:20)。サタンの働きであるキューアノンは、キリスト教と相いれない」
カーター氏はクリスチャンに対し、「そのような欺瞞(ぎまん)に陥る人々を守るために働き」、教会内のキューアノン支持者に「信仰に立ち返るよう嘆願」してほしいと呼び掛けている。そして「クリスチャンがキューアノンの悪魔的な影響に対して反撃し始めるのに早過ぎることはないし、遅過ぎることもない」と結んでいる。
トランプ大統領は19日、キューアノンについて多くを知らないと語ったが、キューアノンの支持者らが「私のことをとても気に入ってくれている」ことと、彼らが「米国を愛している」ことを承知していると述べた。
米連邦捜査局(FBI)は昨年、キューアノンを国内テロの脅威に分類したが、国土安全保障省のチャド・ウォルフ長官は23日、米CNNとのインタビュー(英語)で、キューアノンは「重大な脅威」ではないと述べる一方、FBIの評価に反対する理由は何もないと強調した。