キリスト教精神に基づき世界の子どもたちを支援している国際NGO「ワールド・ビジョン」はこのほど、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する過去100日間の対応をまとめた報告書(英語)を発表した。ワールド・ビジョンは、脆弱(ぜいじゃく)な環境にある子どもたちに焦点を当てた支援を行っており、特にシリアの状況を危惧。この3カ月間で感染事例が20倍に増加しており、病院の収容力が追い付かず、首都ダマスカスと近郊の病院に対しては、感染患者の受け入れを中止するよう求める指示も出されているという。
ワールド・ビジョンのアンドリュー・モーリー総裁兼最高責任者(CEO)は、「10年近くの紛争で既に疲弊していた子どもたちとその家族にとって、COVID-19は壊滅的な打撃です。検査体制が不十分な点を考慮すると、報告されている数字は氷山の一角かもしれません。キャンプで暮らす人々にとって、ソーシャル・ディスタンシングや清潔な水で手を洗うことは不可能です」と、シリアの状況に対する危機感を語る。
米ジョンズ・ホプキンス大学のまとめ(英語)によると、シリアにおけるCOVID-19の感染事例は1日現在、757件で他国と比べると低く抑えられている。しかし、ワールド・ビジョンによると、それでもこの3カ月で20倍に増加しており、感染が確実に広がっている。また紛争により、多くの社会インフラが破壊されたことから、ワールド・ビジョンのシリア担当者であるヨハン・ムーイ氏は、「増加のペースが病院の収容力を圧倒している状況」と話す。
「世界中にCOVID-19がまん延する中、最も脆弱な地域では感染はまだピークには達していません。シリアでは、避難民キャンプで生活している人々の状況が深刻です。インフラは破壊され、保健サービスは機能不全となっています。状況が悪化すれば、今かろうじて機能している保健システムはすぐに崩壊するでしょう」
報告書では、ワールド・ビジョンが遠隔地支援にどのように対応したのか、またコミュニティー、医療従事者、宗教指導者たちとの連携をどのように拡大したのか、難民・避難民キャンプでどのような感染防止策を取ったのか、などをまとめている。ワールド・ビジョンによると、これまでにCOVID-19への対応として、世界の4400万人に必要な支援を届けており、このうち半数は子どもたちだという。今後も、最も脆弱な環境にある子どもたちとその家族を優先的に支援する計画で、活動継続のために寄付を募っている。9月までに必要となる活動資金は3億5千万ドル(約375億円)に上り、寄付はワールド・ビジョンの日本支部であるワールド・ビジョン・ジャパンのサイトで受け付けている。