世界の子どもたちを支援するキリスト教主義の国際NGOワールド・ビジョンは6日、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界の子どもたちが受ける悪影響についてまとめた緊急報告書(英語)を発表した。
対象国は、国連の新型コロナウイルス人道支援計画(英語)で最もぜい弱とされる24カ国。2014年から16年にかけて起こったエボラ出血熱の大流行に対して、ワールド・ビジョンが実施した大規模な緊急支援の経験を基に分析した。
報告書は、新型コロナウイルスの感染拡大が進むことにより、保健医療システムが崩壊し、▽新型コロナウイルス以外の病気にかかった際に治療を受けられなくなる、▽本来受けるべき各疾病の予防接種を受けられなくなる、もしくは接種が遅れる、▽食料不足によって栄養不良が増加する、と指摘している。
また、これらの事態が発生した場合に影響を受けると推測される子どもたちの数は、約3千万人に上るとしている。具体的には、▽予防接種を受けられなくなり、結果として深刻な疾病にかかりやすくなる子どもが2600万人、▽重度の栄養不良に陥る子どもが現在の4割増に当たる500万人、▽マラリアに感染しても治療を受けられずに死亡する子どもが現在の5割増に当たる10万人に上ると分析している。さらに、これらに加えて、子どもたちを含む人口の多くが極度の貧困に陥ったり、生命を失ったりする危機にさらされるとも警告している。
緊急報告書の発表に当たり、ワールド・ビジョン総裁のアンドリュー・モーリー氏は、「子どもたちは新型コロナウイルス感染症とはあまり関係ない、という考えは大きな誤解」と指摘する。「感染が拡大して保健医療システムが崩壊すると、子どもたちは命に関わる他の疾病や重度の栄養不良になっても、治療を受けられなくなるのです。新型コロナウイルス感染症は全世界に大きな影響を及ぼしていますが、ぜい弱な環境にある国・地域においては、こうした副次的な事由が子どもたちの命を危険にさらすことが危惧されます。われわれはまさに今、行動することが求められています」
ワールド・ビジョン人道支援グローバル・ディレクターのイザベル・ゴメス氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中の人々が大打撃を受けています。紛争や貧困によってすでに疲弊している国・地域に住む人々にとっては、壊滅的な影響を及ぼすものです」とし、「こうした場所で生きる子どもたちが、最も大きな代償を払うことになってしまいます」と警鐘を鳴らした。
ワールド・ビジョンは新型コロナウイルスに対する緊急対応として、1月にアジア地域での緊急支援活動を開始。さらに世界的な感染拡大を受け、3月には活動国を世界で最もぜい弱な17カ国に広げた。この17の優先支援国に住む2250万人のうち、約半数は子どもたちだ。この緊急支援活動には、最低8千万米ドル(約86億円)の支援が必要だという。
国連や他の人道支援団体とも協調し、現在は活動内容やスタッフ、資金の集約のために調節を行っている。すでに、これらの優先支援国では、計22万人に上る地域の保健従事者や、キリスト教を含むさまざまな宗教指導者数千人とも協力し、感染防止のための啓発活動や保健サービスを補う活動を展開している。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により生計を立てられなくなる家庭の子どもたちに支援物資を提供したり、外出制限措置が取られている地域では、各種メッセージサービスやラジオなどを通して、各家庭に保健に関わる情報を提供したりしている。また、アフガニスタンでは移動医療チームを展開し、ヨルダンやバングラデシュでは難民キャンプに手洗いコーナーを設置するなどの取り組みをすでに行っている。
世界約100カ国で活動を展開するワールド・ビジョンは、支援地域の前線で活動するスタッフが約3万7千人に上り、「今後も国際人道支援団体として緊急支援活動を継続してまいります」としている。日本では、日本事務所であるワールド・ビジョン・ジャパンが3月中旬から緊急支援募金を始め、寄付の受け付けを行っている。