インド東部とバングラデシュを20日に襲った大型のサイクロン「アンファン」による被害で、これまでに100人以上が死亡し、300万人以上が避難を余儀なくされている。避難所では人が密集しており、新型コロナウイルスの感染者が増えている両国で、さらなる感染拡大への懸念が強まっている。現地で緊急人道支援を行うキリスト教主義の国際NGOワールド・ビジョンは、新型コロナウイルスによる影響も重なり、現地の子どもたちがこれまで以上に脆弱(ぜいじゃく)な状況に置かれていると警告する。
インドやバングラデシュの多くの沿岸部や低地では、豪雨に伴って洪水が起こる。堤防が崩壊し、広大な農地が海水で汚染されてしまう。サイクロンによる被害が少なかった地域でも、新型コロナウイルスの影響が重なり、特に農村部における貧困層の脆弱性が懸念されている。
バングラデシュ南東部のコックスバザールにある世界最大の難民キャンプでは、ミャンマーにおける迫害から逃れてきたロヒンギャ難民が、竹と防水シートで作った簡素な仮設住宅で暮らしている。サイクロンの直撃は免れたものの、ワールド・ビジョンによると、約7千世帯が影響を受けたという。バングラデシュでワールド・ビジョンのロヒンギャ難民支援担当ディレクターを務めるレイチェル・ウルフ氏は、「持続的な解決策を見つけなければ、次は運に恵まれず、多くの命を失うことになるかもしれません」と危機感を募らせる。
インドでは、低地のバサンティ地域の貧しい農民が最も深刻な被害を受けた。ワールド・ビジョンのインド事務所で緊急人道支援の責任者を務めるフランクリン・ジョーンズ氏は、「子どもたちとその家族の幸せは、私たちにとって最優先事項です。多くの家や農地と海の間には細い堤防しかなく、それも今回のサイクロンで崩壊しました。社会から取り残されたこの脆弱で貧しい地域は、すでに新型コロナウイルスと悪化し続ける気候変動の二重の脅威に直面していたのです」と語る。
インドとバングラデシュでは、新型コロナウイルスの感染拡大により、支援活動にも深刻な影響が出ている。ワールド・ビジョンの南アジア・太平洋地域担当責任者を務めるチュリアン・トーマス氏は、「新型コロナウイルスの影響による移動の禁止、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保は、最も貧しい人々の生活と命をすでに脅かしていました。多くの家族が1日2回しか食事を取れていない中、サイクロンが事態を悪化させました。洪水が水源を汚染し、死に至る可能性のある下痢などの感染症がまん延する可能性があります」と指摘する。
インドとバングラデシュで活動するワールド・ビジョンは、食料、衛生キット、家屋の修理用品など、命を救う人道支援物資を現地の子どもたちとその家族に届けている。また、復興支援として現金給付(キャッシュ・バウチャー)も行っている。支援活動は、バングラデシュ南西のサトキラとクルナ、インドのバサンティとコルカタを中心に行われ、すでに110万人の子どもを含む270万人に支援が届けられた。日本では、日本事務所であるワールド・ビジョン・ジャパンが3月中旬から緊急支援募金を始め、寄付の受け付けを行っている。