米国で伝統的な結婚観を堅持するキリスト教諸団体に対する敵意が増加する中、ドナルド・トランプ大統領は6月28日、里親制度を強化するために州や地方自治体に、キリスト教などの信仰に基づいた団体と連携することを求める大統領令に署名した。
トランプ氏が署名した大統領令(英語)は、里親制度に関わる地域の各団体同士の「堅固な連携」に対する支援の必要性などを訴えるもので、里親制度に関する諸問題について、さらなる調査と改善を連邦政府と各州政府などに要請するもの。
米国では近年、里親に育てられる子どもの数は減少しているものの、依然として全米で43万人以上が里親の元におり、さらにこのうち12万人以上は養子縁組の要件を満たしながらも、養親が見つからない状況にある。大統領令では、こうした永続的な家族が見つかるまで数年待機させられる子どもの数が多過ぎると強調している。
「近年、米国では毎年約2万人の若者が里親制度の対象となる年齢から外れている。ある研究によると、里親制度を利用することができないまま対象年齢の上限を過ぎた若者は、その生涯において非常な困難を体験するとされている」
対象年齢を超えた若者のうち、ホームレス状態を経験する人は40パーセントに及び、24歳時点で失業状態にある人は50パーセントに上る。大統領令は、これらの数字を「受け入れられない」ものだとしている。
「里親制度の中で、長期間にわたって(養子縁組を)待機しなければいけない子どもたちの数が増加したのには、幾つかの要因がある。1つ目は、州と地域の児童福祉行政がしばしば、信仰に基づいた団体を含む、地域の民間団体との強力な連携を欠いていること。2つ目は、親族、保護者、里親、養親として、里親制度の中にいる子どもたちを受け入れる人々に対する適切な支援が欠けている可能性があること。3つ目は、危機に陥った子どもたちと家族を助けることを目的とした手続きや制度が、逆に官僚主義的な障壁を作り上げ、子どもたちと家族が必要な手助けを得るのを困難にさせていること」
大統領令は保健福祉省に対しては、州政府、公共機関、民間機関、そして信仰に基づいた地域団体の相互が「強固な連携」を取ることを奨励するように呼び掛けている。特に同省長官に対しては、「信仰に基づいた団体や地域の団体を含む、非政府組織と連携し、里親や養親となる家族を補充する」戦略の報告を各州に義務付けることを要請している。
今回の大統領令の背景には、幾つかの州や地方自治体がキリスト教関係の里親団体との連携を終了させたことがある。連携終了の理由には、これらの団体が同性カップルの家庭に子どもを送らず、同性カップルの家庭を他の養子縁組団体や里親団体に紹介していたことが挙げられていた。
保健福祉省のアレックス・アザール長官はツイッター(英語)で今回の大統領令は、現政権の「養子縁組を奨励する歴史的な誓約となった」と述べ歓迎した。
カトリック系のCNA通信(英語)によると、キリスト教の里親支援団体「ベタニー・クリスチャン・サービス」(BCS)も大統領令を歓迎。「子どもたちは家庭の中で最善を尽くします。そして残念なことに、米国では数千人の子どもたちが安全で安定的に育つことのできる家族を持っていません。私たちは、子どもたちと家族を中心とした解決策と、協調的な『全員が総力を挙げる』アプローチを通して児童福祉制度の中で公正な成果が出るよう改善しなければいけません」とした。
一方、米自由人権協会(ACLU)「LGBTとHIVプロジェクト」のレズリー・クーパー副部長は、ACLUのサイトに掲載した論評(英語)で、この大統領令は「偽善」だと非難。「宗教は差別の許可状ではありません。政府の委託を受けて児童福祉を提供する団体は、子どもたちが必要としていることを優先する必要があります。性的指向や信仰、その他の養育能力に関わらない理由によって、里親の志願者たちを拒絶することは、子どもたちを受け入れる家庭の数を制限することになるのです」と異議を唱えた。