1. 「偽り」に対して「真実」をもって対抗する
ある裁判で、相手は初めからあらゆる偽証と罵倒で攻めてきた。しかし、こちらは真実の証拠をもって冷静に応戦し、あと1回の裁判で勝訴が確定するところまで追い込んだ。
ところがその前日、依頼者から「先生、実はこの書類は自分が偽造しました」と告白され、「えっ、そんなばかな!」と絶句。私はそれが偽造であることを知らされずに証拠として提出していた。その証拠は重要であったが、必ずしもそれがなくても勝てる裁判だった。相手はそれが偽造であることを知っていたから、むきになってその弱点を攻めてきていた。
私は非常に悩んだ。そのまま証人尋問になれば相手の厳しい追及によって依頼者が偽証罪に問われる可能性がある。依頼者は、「これが偽造だとは分かりっこありませんよ」と高をくくっていたが、弁護士としては偽造と分かっていながらそれを本物だと言うことはできない。結局、依頼者を説得して不利な和解で決着せざるを得なかった。最初から正直に「真理」をもって戦えていたらと悔やまれる。
2. 「脅し」に対して「勇気」をもって対抗する
ある有名芸能人に、「慰謝料を払わなければ、強姦(ごうかん)スキャンダルを週刊誌にばらしてお前の芸能人生命を終わらせてやる! また、強姦の加害者としてお前を警察に告訴する」と女性が電話で脅してきた。バックには暴力団がついていたようだ。無視していたら、自称被害者から弁護士を通じて巨額の慰謝料請求の内容証明郵便が届いた。真実は、熱狂ファンを偽装した若い女性からあの手この手で執拗に誘惑されたが、彼は「最後の一線を越えなかった」という事案だった。
事実無根であってもこの種のスキャンダルが公表されることは芸能人にとっては致命的である。「お金で収まることなら」と穏便に済まそうかとも迷ったが、悪人の脅しに屈して一度慰謝料を払えば、不倫行為が既成事実化されて、次々に要求がエスカレートしてくることは目に見えていた。
彼は勇気を出して弁護士を通じ、「事実無根の恐喝行為には絶対に屈しない!」と相手の弁護士に内容証明郵便を送り、直ちに恐喝事件として所轄警察署に告訴して相手の先手を打った。警察から取り調べのため呼び出されて驚いた相手が不当な要求を取りやめたので、彼は告訴を取り下げた。
3. 「暴力」に対して「忍耐」をもって対抗する
ある会社社長が八百長賭博に誘われて大損をしてしまった。自分の銀行預金を全部引き出して支払ったがまだ足りない。社長は何度も呼び出されて、「会社の金を持ってこい!」と言われ、その都度相手から殴る蹴るの暴行を受けた。「いくら社長といえども会社の金に手をつけるわけにはいかない。しかし警察にもっていけば自分も賭博罪の共犯になってしまう」と悩みに悩んだ。
彼は柔道3段の猛者でもあったから、逆に相手を暴力で制することもできた。でも、相手を投げ飛ばして傷害を負わせれば傷害罪になってしまう。彼は暴行を受けるままにして、医者に診てもらい診断書を書いてもらった。そして、弁護士名で傷の写真と診断書を相手に送り付け、医療費と慰謝料の請求をした。以後、相手は要求を諦めた。
だれも悪をもって悪に報いないように心がけ、お互いに、またみんなに対して、いつも善を追い求めなさい。(1テサロニケ5:15)
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