世界2位の総合出版社「ハーパーコリンズ出版」(本社・米ニューヨーク)のキリスト教出版部門である「ハーパーコリンズ・キリスト教出版」(HCCP)は、中国製の書籍や印刷物に関税措置が取られる恐れがあることに懸念を表明し、米国内の聖書販売に「損害を与える」ことになると警鐘を鳴らした。
HCCPは、米聖書出版最大手のトーマス・ネルソン社やゾンダーバン社を傘下に持ち、これら2社による聖書製作費の約75パーセントは中国で発生している。同社の説明によると、「(中国製の)書籍や聖書に関税を課した場合、当社の事業と顧客に深刻かつ過度の損害を与えることになる」という。
クリスチャンポストが入手した資料によると、HCCPはロバート・ライトハイザー米通商代表に宛てたパブリックコメントの中で次のように述べている。
「現政権は、より公正な条件で知的財産の保護と譲渡が行われるよう中国と交渉しており、当社はその取り組みを支持しています。米国は長年、中国の知的財産に関する政策に影響を与えることなく、書籍や関連資料を貿易規制から除外してきました。しかし書籍や聖書に関税を課した場合、従来の政策を犠牲にすることになると当社は考えています」
HCCPの説明によると、中国以外の代替業者で聖書の生産を維持するには設備が足らないという。
「当社と取り引き可能な中国以外の代替業者には、現在中国で作られている聖書を製造するだけの設備がありません。代替業者の設備に限りがあるため、生産能力も限定されています。代替業者には、中国による膨大な生産量をカバーすることができません。また提案されている関税を含めた場合、代替業者の価格は中国との長期契約の下で発生するコストと既に拮抗(きっこう)しています」
HCCPのマーク・シェーンバルト社長兼最高経営責任者(CEO)は6月18日、米通商代表部の公聴会で証言した。
シェーンバルト氏は証言の中で、中国製聖書に関税が課された場合、自社製品の値上げが強いられる可能性があることに言及し、「聖書の消費者が最も重視し、期待するようになった特徴を持つ聖書を廃版」にせざるを得ないと警鐘を鳴らした。
「そうした聖書購入者の多くは、教会や非営利団体、宣教団体や学校などです。これらの団体は神の言葉を学んだり、広めたりしようと努めています。これらの団体による宣教の取り組みは、関税措置によって課されるコスト増によって必然的に影響を受けることになるでしょう」
HCCPは9日、米中間の貿易交渉に関する現在の動向についてこれ以上のコメントはないと、クリスチャンポストに述べた。
米国は、中国製品に対する第4弾の制裁関税として、3千億ドル(約33兆円)分への追加関税を検討していたが、6月下旬に大阪で開かれた米中首脳会談により、当面見送ることを決めた。会談ではこの他、5月に決裂していた閣僚級の貿易協議を再開することも決め、9日には米通商代表部のライトハイザー氏と、中国の劉鶴(りゅう・かく)副首相、鍾山(しょう・ざん)商務相による電話での協議が行われた。