米コロラド州にあるマスターピース・ケーキ店の店主ジャック・フィリップスさんが、自身の信仰上の理由でケーキ作りを拒否したことをめぐり、3度目の訴訟に直面している。
トランスジェンダーの女性であるオータム・スカーディナさんは5日、コロラド州地方裁に、フィリップスさんに対する訴訟を起こした。スカーディナさんは、「バースデーケーキ」と表示されたケーキを作ることをフィリップスさんが拒否したと主張。同州の差別禁止法および消費者保護法に違反していると訴えている。このバースデーケーキは、外側が青く内側がピンク色をしており、スカーディナさんが男性から女性に性別移行したことを象徴するものだった。
保守的なキリスト教徒であるフィリップスさんは、自身の信仰上の理由から、同性カップルのウエディングケーキを作ることを拒否したことで訴訟となり、1審と2審で敗れるも、昨年6月に最高裁で逆転勝訴していた。しかしその直後にスカーディナさんが、性別移行を祝うケーキを作ることを拒否されたとして、コロラド州公民権委員会に訴え、再び訴訟に。2度目の訴訟は、同州とフィリップスさん側双方が訴えを取り下げることで和解が成立していたが、今度はスカーディナさん本人が提訴したことで、3度目の訴訟となった。
スカーディナさんの代理人は、ポーラ・グレイセン弁護士とジョン・マクヒュー弁護士が務めている。グレイセン氏は地元テレビ「CBS4」のインタビュー(英語)で、「この州では全市民の尊厳が尊重される必要があります」と述べた。
「マスターピース・ケーキ店は以前、最高裁で性的少数派に属する人にも焼き菓子を提供するとしました。(最高裁で)宗教的意義が認められたのは、焼き菓子がウエディングケーキであるときのみでした」とグレイセン氏は主張。フィリップスさんが勝訴した最高裁で宗教的意義が認められたのはウエディングケーキについてであり、今回はバースデーケーキだとして、グレイセン氏は「原告は世間に対して正直だとは思えません」と述べた。
これまでの訴訟でフィリップスさんの代理人を務めてきた「自由防衛同盟」(ADF)のジム・キャンベル氏は声明で、この訴訟は単なる嫌がらせだと述べた。ADFは、キリスト教保守派の法律家らによる非営利団体。
「今回、マスターピース・ケーキ店に対して起こされた訴訟は、過去の主張の焼き直しのように見えます。コロラド州はほんの数カ月前に、これと同様の訴訟を放棄しました。ですから、スカーディナさんによる今回の攻撃は、ケーキ職人のフィリップスさんに対して再び嫌がらせをしようとする必死の試みのように見えます。しかし、この試みは非常に重要な点でつまずいています。フィリップスさんは誰に対してもサービスを提供しています。ただ、バースデーケーキでは表現できないメッセージがあるだけなのです」
ここ数年、フィリップスさんとマスターピース・ケーキ店は、信仰上の理由で同意できないイベントへのサービス提供を強要する訴訟の標的にされている。
米連邦最高裁は昨年6月、マスターピース・ケーキ店対コロラド州公民権委の上告審において、7対2でケーキ店側を擁護する判決を下した。この判決では、同性カップルのウエディングケーキ作りを拒否したフィリップスさんに対し、同委が罰金を科したことは誤りだとした。さらに公民権法の適用に偏りが見られるとし、フィリップスさんによる信教の自由の権利の行使を同委が侵害したとする判断を示していた。
アンソニー・ケネディー判事は、判決の主文で次のように述べている。
「ある人の信仰を『人が使うことができる表現方法の中で最も卑劣なもの』と表現することは、少なくとも2つの方法で当人の宗教を侮辱することになる。1つは卑劣なと表現することであり、もう1つは信仰を単なる表現方法とすることである。このような発言は中身がなく、不誠実である」
「このような感情は、コロラド州の反差別法の公正かつ中立的な執行の責任を義務付けられた公民権委員会には不適切である。反差別法は、宗教や性的指向に対する差別を防ぐ法律である」
この判決から間もなくして、スカーディナさんは、性別移行を祝うケーキ作り拒否をめぐり同委にフィリップスさんを告訴。フィリップスさんが反差別法に違反したとする判断を同委が下したため、フィリップスさんは昨年8月、同州を訴えた。
しかし今年3月に入って、同州とフィリップスさんはそれぞれの訴訟を取り下げることに同意。同州のフィル・ウェイザー司法長官は、「双方がこれらの訴訟を進めることは誰の利益にもならない」と指摘。「より大きな憲法上の問題が今後決定される可能性があるが、これらの訴訟はその問題を解決する手段にはならない。州および国の公民権法を執行するに当たり、万人に平等な正義こそ私たちが支持する中心的価値観であり続ける」と述べていた。
今回3度目となる訴訟が認められたのは、同州とフィリップスさんが協議の中で、スカーディナさん本人がフィリップスさんに対し訴訟を起こす権利があることを認めたことによる。