英国学士院は最近、英国内の高等教育において神学と宗教学を学ぶ学生が大幅に減少しており、危機的な状況にあるとする報告書を発表した。
英国学士院が発表した報告書「英国の高等教育における神学と宗教学の提供」(英語)によると、2017年~18年度に神学や宗教学を専攻した学生数は、11年~12年度と比較すると約5500人も減少した。学士課程に限っても、神学や宗教学を専攻する学生はこの6年で3割近く減っている。
英国では12年、学費と奨学金の改訂を伴う大幅な教育改革が行われており、英国学士院は、それらが大きな影響を与えた可能性があると分析している。報告書の概要では次のように述べている。
「学生数の減少は学校や学部に対する負担の増加を意味しており、教育機関はその価値の見直しや閉校を余儀なくされている。英国の神学専門機関『ヘイスロップ・カレッジ』(ロンドン大学)は1614年に設立され、400年余りにわたり教育プログラムを提供してきたが、2018年に閉校した」
また、神学や宗教学を他の分野と比較した場合、男女格差や年齢格差があることも明らかになった。
女性教職員の比率は、類似する人文科学では53パーセントと半数を超えるが、神学や宗教学では37パーセントにとどまった。また教職員の平均年齢は、神学や宗教学では47歳だったのに対し、哲学や古典学、歴史学の分野では43歳と、同じ人文科学でも4歳の差があった。
英国学士院の研究高等教育政策委員会副会長で、報告書の共著者でもあるロジャー・ケイン氏は声明(英語)で、報告書は学問分野における「危機的な時節」に発表されたと述べた。
「神学や宗教学の人気が薄れているだけでなく、それらの学科の教職員のプロフィールにより、問題が複雑化しているのです」とケイン氏は指摘する。「民族や性別の面でもっと多様なグループが神学や宗教学の教職員の中に現れない限り、神学や宗教学という分野は大学から姿を消す恐れがあります」
英国では近年、キリスト教の衰退に歯止めを掛けようと多くの取り組みがなされているが、教会員数や礼拝出席者の減少、教会の閉鎖が後を絶たない。
英大手世論調査会社「ユーガブ」が昨年2月に発表した調査結果(英語)によると、宗教学は最も学ぶ必要のない科目の1つとして挙がった。
ユーガブは英国人1600人を対象に、学校において最も重要と思われる科目について尋ねる調査を実施した。選択肢の中には、演劇や音楽、宗教学、体育なども含まれていたが、宗教学について「非常に重要だ」と答えた人は12パーセントしかいなく、大半が「あまり重要ではない」または「まったく重要ではない」と答えた。宗教学より下位にランク付けされた科目は、演劇(8パーセント)と古典(7パーセント)、最下位のラテン語(3パーセント)のみだった。
英国学士院(British Academy)は、1902年に設立された英国の国立アカデミー。王立協会(Royal Society)が自然科学を対象にしているのに対し、人文社会科学を対象としている。最先端の研究に対する助成や、傑出した研究の顕彰、研究成果の発信などを行っている。現在、フェロー(会員)は千人を超える。