皆さん、こんにちは。京大式・聖書ギリシャ語入門を担当させていただいております、宮川創、福田耕佑です。今回は、これまで学んだ動詞の復習をしたいと思います。
動詞では、エイミ(εἰμί)という動詞と、メノー(μένω)という動詞を主に学びましたが、この2つの動詞の活用を覚えてしまいましょう。メノーと同じ活用をする動詞は多いのに対し、エイミの方は変則的な活用です。
1人称は主語が「私、僕、俺」、2人称は主語が「あなた、君、お前、貴様」、3人称は「彼(女)、あの人、この人、その人、○○君、○○さん、あれ、これ、それ」などになるのでした。
つまり、1人称は、話し手自身(私)、2人称は聞き手(あなた)、3人称はその他の人、もしくはものになるのです。
また、新約聖書で用いられているギリシャ語には、「単数」と「複数」という数の区別もあります。単数は1人の人、もしくは1つのものを表し、複数は2人以上の人、もしくは2つ以上のものを表します。もっと昔のギリシャ語には「双数」というものがあり、単数(1人、1つ)、双数(2人、2つ)、複数(3人以上、3つ以上)という区別でしたが、新約時代になると、双数が複数に吸収されました。
この人称と数は、日本語では文法にあまり関わってこないので、どうしてギリシャ語はそこまで人称と数に厳格にこだわるのか、日本語話者には疑問に思われるかもしれません。しかし世界には、ギリシャ語のように人称と数が文法システムの根幹に組み込まれている言語がたくさんあります。ギリシャ語の動詞は、この人称と数に従って語尾が変わります。ギリシャ語はこのように人称と数の区別をかなり厳格にし、それが文法システムの基礎に内蔵されていることをよく覚えておいてください。
■ メノー型の動詞の活用
では、メノーとエイミの2つの動詞の活用のおさらいをしましょう。これまでのところ、現在形しか学んでいないのですが、実はもっとたくさんの形があります。3人称は、彼(女)で代表させましたが、主語はパウロなど人名でも、鉛筆などのものでも、動物でも、抽象概念でも、話し手(私)と聞き手(あなた)以外の人・ものならば、何でも構いません。
メノー型の動詞は、ギリシャ語の動詞の中で最も多く、活用語尾を覚えると大変便利です。この際、次の表にある動詞の活用語尾を人称と数に関連付けてすべて覚えてしまってください。難しい場合は、覚えるための歌もあります。こちらをクリックして聞いて、歌で活用を覚えてしまってください(歌1・歌2、最初の表だけをご覧ください)。
単数 【例:1人の人が〜】 |
複数 【例:人々が〜】 |
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1人称 【私が〜】 |
μένω (ménō) 「私が留まる」 |
μένομεν (ménomen) 「私たちが留まる」 |
2人称 【あなたが〜】 |
μένεις (méneis) 「あなたが留まる」 |
μένετε (ménete) 「あなたたちが留まる」 |
3人称 【彼(女)が〜、それが〜】 |
μένει (ménei) 「彼(女)が留まる」 |
μένουσι(ν) (ménete) 「彼(女)たちが留まる」 |
変化しているのは語尾だけで、μέν-(mén-) はずっと変化していませんね。このように活用において変化していない部分は語幹と呼ばれます。このメノー型は、ほとんどの動詞が属します。
変化する語尾だけを抜き出せば、-ω、-εις、-ει、-ομεν、-ετε、-ουσι(ν)、ラテン文字で音写すると、-ō、-eis、-ei、-omen、-ete、-ousi(n)、カタカナで音写すると、オー、エイス、エイ、オメン、エテ、ウースィ(ン)となります。最後の -ουσι(ν) の ν はある時とない時がありますが、3人称複数形であることが判別できれば、読む分には特に気にしなくてよいです。
■ エイミの活用
次はエイミです。エイミは「〜は〜である」というコピュラ文で用いられるため、ギリシャ語の動詞の中でも最もよく用いられる動詞ですが、変則的な活用をします。実は、ギリシャ語の動詞の型には mi 動詞というメノー型と異なる型があって、エイミはそこに入るのです。しかし、エイミは特別な動詞だからか、mi 動詞の中でも変則的な活用をします。エイミの活用は、これはそのまま覚えてしまってください。
単数 【例:1人の人が〜】 |
複数 【例:人々が〜】 |
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1人称 【私が〜】 |
εἰμί (eimí) 「私が〜である」 |
ἐσμέν (esmén) 「私たちが〜である」 |
2人称 【あなたが〜】 |
εἶ (eĩ) 「あなたが〜である」 |
ἐστέ (esté) 「あなたたちが〜である」 |
3人称 【彼(女)が〜、それが〜】 |
ἐστί(ν) (estí(n)) 「彼(女)が〜である」 |
εἰσί(ν) (eisí(n)) 「彼(女)たちが〜である」 |
■ ギリシャ語の法・態・時制
今回はメノー、エイミともに、直説法・能動態・現在における活用の表を見ていますが、この他に別の複数の表が、法・態・時制ごとにあります。法・態・時制ごとに表があって、それぞれの表で動詞が人称と数ごとに変化する、と覚えてください。ギリシャ語には、法・態・時制について下記の区別があります。
<法>
・ただ事実を述べる(直説法)
・事実かどうかまだ確定していないことを述べる(接続法)
・事実にはまだなっていない自分の願望を述べる(希求法)
・誰かに命令をする(命令法)
<態>
・自分がする(能動態)
・自分が自分にする(中動態)
・自分が誰かにされる(受動態)
<時制>
・現在のこと(現在)
・動作が未完了の過去のこと(未完了過去)
・一度きり完結して起こったこと(アオリスト)
・現在完了していること(現在完了)
・過去に完了したこと(過去完了)
これらの法・態・時制、そして人称・数を掛け合わせることで、動詞の形が変化(活用)していきます。
■ 練習問題
1)メノー(μένω)の直説法・能動態・現在の活用と意味を書きなさい(今回習った活用です)。
単数 【例:1人の人が〜】 |
複数 【例:人々が〜】 |
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1人称 【私が〜】 |
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2人称 【あなたが〜】 |
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3人称 【彼(女)が〜、それが〜】 |
2)エイミ(εἰμί)の直説法・能動態・現在の活用と意味を書きなさい(今回習った活用です)。
単数 【例:1人の人が〜】 |
複数 【例:人々が〜】 |
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1人称 【私が〜】 |
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2人称 【あなたが〜】 |
||
3人称 【彼(女)が〜、それが〜】 |
次回は、動詞の直説法・能動態・未完了過去形を学びます。また、もしフェイスブックのアカウントをお持ちでしたら、こちらのページでご質問・ご感想をお待ちしております。それでは。
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宮川創(みやがわ・そう)
1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。
福田耕佑(ふくだ・こうすけ)
1990年愛媛県生まれ。現在、京都大学大学院文学研究科現代文科学専攻博士後期課程、日本学術振興会特別研究員(DC1)。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論―『禁欲』を中心に―」『東方キリスト教世界研究』第1号など。