英ケンブリッジの聖書研究所「ティンダルハウス」が15日、「世界で最も正確」だと自負する最新版のギリシャ語新約聖書を出版した。写筆する過程で発生する聖書写本の誤りを専門家らが10年かけて特定し、再構成したもので、さらにここ40年余りの間に新たに発見された写本の内容も反映されている。
現存する英語の新約聖書のほとんどは、1975年版のギリシャ語本文が使われており、当時入手可能だった写本を編さんしたものが底本になっている。しかし、ティンダルハウスによる最新版のギリシャ語新約聖書では、75年以降に発見された複数の古代写本の断片も取り入れられている。さらに、何百年も前の古代写本を書き写した写本作成者の誤りを特定し、除去するために最先端の技術が用いられているという。
最新版ギリシャ語新約聖書の編集責任者で、ティンダルハウス副所長のダーク・ヨンキント博士(英セントエドモンズ大学フェロー)は、最新の物証や技術によっても、イエスの時代以降に聖書本文に対して大きな変化が加えられた形跡は見つからなかったと語った。
「文章を書き写すとき、人は必ず小さな間違いを犯します。新約聖書も例外ではありません。しかし素晴らしいことに、今や私たちには多くの物証があり、新約聖書の写本作成者が犯した誤りの種類を研究し、書き写された本文が何を伝えようとしているのかを、豊富な情報に基づいて結論付けることができるのです」
「最も重要な写本を10年間研究した結果、写筆の過程で一定の誤りが含まれてしまうものの、本文に対して体系的な改変がなされた証拠はまったくないことが判明しています。そのため、写本作成者が誤って『イエス・キリスト』を『キリスト・イエス』に変えてしまった場合でも、意味が本質的に異なってしまう写本に遭遇することはありません」
現存する最古の聖書写本の1つに「シナイ写本」がある。七十人訳聖書(ギリシャ語訳の旧約聖書)の一部のほか、新約聖書の全巻(一部、節の欠損あり)がそろった貴重な写本だ。4世紀ごろに書かれたと考えられており、手書きの本文には、初期の校正者によって多くの注釈が付けられている。シナイ写本の発見以来、多くが1世紀に書かれたと考えられている原本により近いギリシャ語新約聖書を編さんしようと、これまでも多くの取り組みがなされてきた。
ティンダルハウスのギリシャ語新約聖書は、入手可能な最古の写本断片を使って編さんされており、全巻がそろった新約聖書としてまとめられている。販売は英語標準訳聖書(ESV)を発行している米キリスト教出版社クロスウェイが行っており、価格(リンク先はアマゾンで価格は定価と異なる)はハードカバー(黒)が39・99ドル(定価、約4400円)、合成皮革(茶)が69・99ドル(同、約7800円)。サンプルとしてマルコによる福音書が公開されており、将来的には無料で閲覧可能なデジタル版のほか、オーディオ版も公開する予定。詳しくは公式サイト(英語)を。
ティンダルハウスは1944年に設立された聖書研究所で、所内の図書館は世界でも有数の聖書研究に関する資料を所蔵する。毎日40〜50人余りの聖書学者や神学者が利用しており、所属学者は世界で500人を超える。日本では、ティンダルハウスに所属する福音派の学者らが執筆した『ティンデル聖書注解』の日本語訳が、いのちのことば社の創立55周年記念事業として11年かけて出版されている。