日本聖書協会(東京都中央区)は今年12月上旬、同協会発行のものとしては31年ぶりとなる新しい翻訳の聖書「聖書協会共同訳」を発売する。2010年から8年かけて翻訳を行い、これまで出ている日本語訳聖書の改訂や改訳ではなく、「文語訳」(1917年)、「口語訳」(55年)、「新共同訳」(87年)に続く、同協会4番目の聖書となる。書店やアマゾンなどのネットで予約受け付けが始まり、初刷のみ記念価格で販売される。
「聖書協会共同訳」は、「新共同訳」同様、カトリックとプロテスタントの諸教会が共同で取り組んだ聖書で、礼拝での朗読にふさわしい格調高く美しい日本語訳を目指して翻訳された。そのため、聖書をヘブライ語やギリシャ語などの原語から訳す「原語担当者」と、原語担当者が訳した日本語訳をより良い日本語に直す「日本語担当者」が協力して翻訳を行った。携わった翻訳者は計63人で、うち19人が詩人や歌人を含む日本語担当者だという。また、最終稿にたどり着くまでに大きく7つの行程があり、そのうち一つでは、読みやすさだけでなく、話しやすさや聞きやすさの確認も行っている。
聖書全体に関連聖句の引照や注が付いたのも特徴の一つだ。同協会発行の聖書で、旧約、新約、旧約聖書続編の全巻での注付きは初めてとなる。固有名詞と書名は「新共同訳」に準拠した。巻末に付録として付く聖書地図は、「新共同訳」では2色刷り10ページ(10時代)だったが、カラー12ページ(13時代)になった。用語解説や度量衡・通貨の換算表、新約聖書における旧約聖書からの引用箇所一覧なども、「新共同訳」同様に付録する。
新しい底本を使用して原文から翻訳しているが、「口語訳」や「新共同訳」を中心に、これまで出版されてきたさまざまな日本語訳聖書も参考し、良い部分は継承しているという。一方で、言葉の変化や、聖書の動物学、植物学、考古学などの発展に対応し、変更した言葉もある。例えば、「獅子」の使用は詩文などに限定し、実物が登場する場面では「ライオン」にしている。「いなご」は、昔はバッタを含む広い意味で使われていたが、最近ではより厳密に日本特有種のみを指すことから「ばった」に変更した。イエスがファリサイ派やサドカイ派の人々を「蝮(まむし)の子らよ」(マタイ3:7)と叱責(しっせき)する有名な箇所も、日本特有のマムシは中近東には存在しないことから「毒蛇の子らよ」とした。
これまでの日本語訳聖書で長く使用されつつも、一般的な日本語として定着していない訳語については、より分かりやすい言葉に変更した(「嗣業」を「相続地」に、「半部族」を「部族の半数」に)。この他、2010年に常用漢字が増えたのを受け、「ののしる」が「罵る」、「ひとみ」が「瞳」、「わたし」が「私」と、漢字表記になった言葉もある。
また、新しい聖書学の成果も反映されている。例えば、創世記1章27節の「神のかたち」は人間の尊厳を表す重要な言葉とされ、何百年にわたり、人格的応答や人間の使命を表していると考えられてきた。しかし、最近の古代中近東の研究により、「人間が『神のかたち』に造られたとは、人間が世界を正しく治めるために造られた」ことを意味するという新たな視点が出てきたという。
それを反映し、日本語で「かたち」と訳されているヘブライ語「ツェレム」のギリシャ語訳「エイコーン」が使用されている新約聖書の箇所についても、「かたち」という統一した訳語を使用するようにした。それにより、「(キリストは)見えない神の姿」を「見えない神のかたち」(コロサイ1:15)に、「(信仰者は)主と同じ姿に造りかえられていきます」を「主と同じかたちに変えられていきます」(コリント二3:18)に変更しており、創世記からヨハネの黙示録までを貫く一つのメッセージをより明確にしたという。
「聖書協会共同訳」の特徴や実例をまとめた小冊子は、キリスト教書店で無料配布されており、同協会の公式サイトでも公開されている。なお、「新共同訳」については、「文語訳」や「口語訳」同様、2019年以降も出版は継続される。
12月上旬に発売されるのは、旧約聖書続編付きとなしの2種類で、サイズはいずれも中型(B6判)。価格は続編付きが6100円、続編なしが5300円だが、初刷に限り発売記念価格となり、それぞれ5400円、4800円。いずれも税抜き価格。
予約はネット上では、アマゾン(続編付き・なし)や楽天ブックス(続編付き・なし)、教文館のイーショップ(続編付き・なし)などで受け付けている。