西アフリカのカメルーンで、聖書翻訳者が殺害され、信者らの住宅が焼かれる事件が発生した。カメルーンでは最近、フランス語話者の住民と英語話者の住民の間で衝突が起きており、同国における聖書翻訳事業に大きな痛手となっている。
聖書翻訳団体「ウィクリフ・アソシエイツ」(WA、本部:米フロリダ州)のブルース・スミス会長が、ミッション・ネットワーク・ニュース(MNN、英語)に語ったところによると、殺害されたのは現地人聖書翻訳者のアンカ・テレンスさんで、ナイジェリアとの国境沿いにある町ノウで5月23日に兵士らに殺害された。
「家を焼かれた人々が大勢います。彼らは森に逃げなければなりませんでした。(中略)問題なのは、暴力が際限なくエスカレートし続けているように見えることです。必然的に、国民にとっても現地の聖書翻訳の進展にとっても、懸念材料になっています」
スミス氏によると、カメルーンで進められている多くの聖書翻訳作業のうち、暴力の激化により85件が過去数カ月にわたり中断している。また、このうち17件は同国西部の特に危険な地域で行われているという。
「現在進行中の聖書翻訳事業全体に対する大きな痛手となっています。(事件の)影響を受けているのは全体の2割にすぎませんが、それはキリストにある兄弟姉妹のことですから2割といってもかなり大きな数字です」
これとは別に、国際人権団体「アムネスティー・インターナショナル」(英語)が11日に伝えたところによると、同国の英語話者が住む地域で、武装した英語話者の分離主義者が学校42校を襲撃し、治安部隊の42人を殺害した。一方、治安部隊は自供させるため未成年者を含む23人を拷問にかけ、群衆に向けて発砲したり、村を破壊したりしたという。拷問を受けた人は目隠しをされ、棒やロープ、銃などでひどく殴打され、感電させられたり、熱湯でやけどを負わされたりし、アムネスティーはこのうち1人が死亡したことを確認したとしている。
この暴動は、同国の人口の約2割を占める英語話者と、多数派のフランス語話者が握る中央政府との間で長年くすぶってきた不満が表面化したものとされる。この問題による暴力でこれまでに16万人余りが国外退避しており、このうち2万1000人近くがナイジェリアで難民となっている。
スミス氏によると、これは宗教戦争ではないため特に教会が標的にされることはないが、キリスト教徒は依然として火種を抱えているという。
「教会の指導者らがこの国のさまざまな地域で両者の争いを仲介しようとしましたが、残念なことに、彼らまで政府から訴訟の対象にされ、(訴訟に)譲歩するために基本的に弱腰で、仲介プロセスに影響力を行使できませんでした」
WAの現地翻訳者の中には、他にも消息不明になっている人がおり、WAはこれらの人々を助ける努力をしている。
「私たちはまず第一に、チームの一員で自宅から追い出された翻訳者たちの安全を確保しようと努めています。彼らのほとんどが畑や牛などの家畜を失い、それに加えて家まで失っているからです」
「彼らは森で狩りをしたり、木の実を集めたりしてどうにか生き延びている状態です。ですから私たちは彼らの居場所を特定し、安全な場所に連れて行き、聖書翻訳作業を再開できるよう支援しようとしています。しかし、それを可能にするには、彼らが時々カウンセリングを受け、(新しい環境に)なじむ必要があります」
WAは4月、アフリカでも最も危険とされるコンゴ民主共和国(旧ザイール)で新たな聖書翻訳事業を立ち上げることを発表した。スミス氏はその際、同国における暴力について次にように語っていた。
「コンゴ民主共和国の市民が体験してきたことについて考えると、息が詰まるほどです。部族抗争の時代には、人が動物のように捕らえられ、拷問され、切り刻まれ、誘拐され、処刑されました。恐怖と怒りと究極の絶望で最悪の状況でした」