フランスのカトリック教会が3日、新しい「主の祈り」(フランス語で「ノートル・ペール」)を導入した。
英高級紙タイムズ(英語)によると、同教会はこれまで、主の祈りの第6の嘆願「我(われ)らをこころみにあわせず」の部分が、フランス語で「Ne nous soumets pas a la tentation(我らを誘惑に導かず)」と訳されたものを使用してきた。
しかしこの訳はこれまで、信者が罪を犯すよう神が誘惑するかのように誤解されることもあったという。そのため、フランス・カトリック協議会は訳の改定を検討し、今年3月に新しい主の祈りを決定。アドベント初日の3日から、「Ne nous laisse pas entrer en tentation(我らを誘惑に陥れさせず)」という訳で祈るようになった。フランス国内のプロテスタント教会の一部も、これを承認しているという。
現代フランス語で訳された従来の主の祈りは、第2バチカン公会議後の1966年に制定された。仏カトリック教会の典礼責任者であるギー・デ・ケリメル司教(グルノーブル教区)は、英デイリー・テレグラフ紙(英語)に「(従来の)訳自体は間違っていませんでしたが、解釈は曖昧でした」と話している。
しかし、この新しい訳がすべての教会から歓迎されているわけではない。フランス福音主義協議会(CNEF)は、神が人を誘惑するという考えを避けることには同意しつつも、「それ(新しい主の祈り)は、神の主権を水で薄めている」と言う。
国際的な英語訳聖書「NIV」(New International Version、新国際訳)では、マタイによる福音書6章9~13節に書かれた主の祈りは、該当部分が「lead us not into temptation(私たちを誘惑に導かず)」と訳されている。
主の祈りは、日々の生活の中でよく用いられる祈りであることから、ケリメル司教は、人々が新しい文言に慣れるまでは「しばらくは幾分かの不平が出るでしょう」と話している。
ちなみに日本では、プロテスタント教会は「我らをこころみにあわせず」という文語訳を現在も使用しているところが多く、カトリック教会と聖公会は2000年に共通の口語訳を制定し、「わたしたちを誘惑におちいらせず」という訳を用いている。また正教会は、主の祈りを「天主経(てんしゅけい)」と呼び、明治期に独自で作成した文語体の「我等(われら)を誘(いざなひ)に導かず」を現在も使っている。