10月30日から11月1日まで、ドイツの首都ベルリンで「Wittenberg Congress 2017」が開催された。全世界から計500人余りのキリスト者が集ったこの聖会に、日本から唯一、筆者が参加した。10月30日と31日は、マルティン・ルターの宗教改革の意義や現在の教会宣教論の分析がなされ、11月1日は、ルターが「95カ条の論題」を提示したとされるヴィッテンベルク城付属聖堂(Castle Chapel)にて記念礼拝が持たれた(写真)。
2017年は、宗教改革500年を記念してドイツや日本でも各団体がそれぞれ行事を開催した。ドイツでは、ルターの宗教的偉業と神学を想起させる集会、プロテスタントとカトリックの和解を強調する集会、今後のキリスト教会の行く末に焦点が置かれた集会など、50近くが各所で開催された。
集会はクローズドなものからオープンなものまでさまざまであったが、「BILLION SOUL NETWORK」が主催したこの「Wittenberg Congress 2017」は、最もグローバルかつエキュメニカルでオープンな集会だった。プログラムは現在のキリスト教会の行く末に焦点を当て、さまざまな講演や発表で構成されていた。特に、宗教改革から生まれたプロテスタント教会の歩みと現況を分析した上での将来を見据えた宣教論構築への提言は、非常に刺激的な内容だった。そこでは「伝統的教派の教会は従来のままだと教勢の下降は必至」との認識から、現在の教会が直面している危機として、主に以下の3点が挙げられた。
- IT社会への急速な移行で、世俗のネットワークに教会の宣教スタイルが追い付いていない。
- 若い世代の生活スタイルと感性が高齢世代と異なり、教会離れを起こしている。
- イスラム教人口が2030年代にキリスト教人口を追い越し、さらに2050年にはキリスト教人口の2倍に達すると予測されており、非西洋諸国の発展も伴って宗教分布図が塗り替えられる。
最大の衝撃は、30年前には5パーセントだったのが、今では33パーセントにまで成長した韓国のキリスト教人口が、30年後には逆戻りして2・7パーセントになるという予測だった。その背景には、現在教会に連なる若者の総数が全人口の2・7パーセントしかいないという深刻な状況がある。韓国教会では現在、90パーセント以上の教会員が高齢層で、若い世代が教会離れを起こしており、多くの教会員の子どもたちが教会につながっていないという。IT技術の急速な革新により、世代格差が親子間で広がり文化が継承されず、このまま現在の教会が若い世代への宣教をおろそかにすれば、大きな成長を遂げた韓国教会でさえ信仰の継承に失敗する可能性があるという警告だった。
宣教師を彼(か)の地へ派遣する時代から、企業も政治もグローバルなネットワークで瞬時に関係構築する時代に移行している。しかし、いまだにローカルな教会宣教は時代の変化に追い付けず、その結果、教派内で内向きになり、他教派と重複する宣教活動で競い合っているのが現在の状況である。むしろ自由教会や単立教会ほど、IT技術を効果的に導入し、ネットワーク構築が進んでおり、グローバルな宣教に成功しているとの発表がなされたことをここで特記したい。
「BILLION SOUL NETWORK」とは、そのグローバルネットワークを通じ2030年までに10億人に宣教するためにつくられた世界組織で、本部は米フロリダ州とオートラリアにあり、現在までに2・3億人に宣教したという報告があった。主宰のジェームズ・O・デイビス氏は、2010年に「クリスチャン・インフルエンサーの世界トップ10」にも選ばれている。
筆者にとって、教派とは教会性の基礎であり、宣教と教会性は切り離せないものと考える。しかし、西洋の伝統的諸教派でさえ地方教会が存続の危機に瀕(ひん)しており、教派間の合併・併合が進行している。近い将来、まったく別の教派像――内向きに収斂(しゅうれん)した教派色を薄めた合同教会像――が立ち現れるのではないかと予測する。しかし、信徒・一般クリスチャンにとっては、所属教派には誇りを持つがそれは唯一ではなく、教派を相対化して捉えているのが現代のキリスト教会像であり、外に開かれた宣教を進めるためには、地方教会によるグローバルなネットワーク作りが必須ということになる。
プロテスタント諸教会は、宗教改革の500年目を迎えた。これまで多くの教派を生み出したが、そこからさらに自由教会への流れが加速し、教会性と宣教論が綱引きをしている状態がある。幸いなのは、「聖書の権威」だけは失われていない点である。欧州を訪れると、カトリック教会のミサは人であふれているが、伝統的プロテスタント諸教会は低迷しているのを目にする。時代はわれわれが思うよりも速く進んでおり、遅くとも20年後にはプロテスタント教会の行く末の答えが出ているかもしれない。
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