米ニューヨークで車が暴走し8人が死亡するテロ事件が発生したことを受け、米国内の教会指導者たちは、犠牲者の遺族や関係者、また事件の対応に当たる当局者のために祈るよう求めた。地元ニューヨークの大司教であるティモシー・ドーラン枢機卿は「傷ついた人々を支えるために信仰と愛で一致しなければならない」とコメント。凶悪な事件に対し憎しみではなく、一致して対応する必要があると訴えた。
事件は、人出が多くなるハロウィンの10月31日に発生した。ウズベキスタン出身のサイフロ・サイポフ容疑者(29)が運転する小型トラックが、ニューヨークの中心地マンハッタン南西部の自転車専用道を約1・3キロにわたって猛スピードで走行。自転車に乗っていた人や歩行者を次々とはね、8人が死亡、12人が負傷した。警察に身柄を拘束される前、サイポフ容疑者は「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んでいたとされており、携帯電話からは過激派組織「イスラム国」(IS)に関連した動画約90本と、ISの幹部らが写った写真約3800枚が見つかった。
「今日、私たちの街と私たちの国は、無意味な暴力にがくぜんとさせられ、恐怖を覚えています」。ドーラン枢機卿は事件の悲しみを伝え、カトリック系ニュースサイト「クラックス」(英語)で次のように訴えた。
「まだ(事件の)詳細が明らかになりつつある段階ですが、1つのことは確かです。それは、宗教や人種、民族的背景、政治信条が何であれ、私たちは違いを脇に置き、傷ついた人々を支えるために信仰と愛で一致しなければならない、ということです。犠牲となった方、家族や愛する人を失った遺族の方のために祈らなければなりません。そして、すべての人が尊敬し合い、理解し合えるよう前進しなければなりません。そうすることで、今回の事件のような非道で邪悪な行為を過去のものとすることができるのです」
米最大のプロテスタント教団である南部バプテスト連盟(SBC)の前議長で、米国の「国家祈祷日」会長であるロニー・フロイド牧師は、全米の牧師たちに祈りを呼び掛けた。「米国のすべての教会の牧師は、ニューヨークで起きたテロ事件のすべての被害者のために祈らなければなりません。イエスにあって私たちが抱いている希望を覚えつつ、純粋な信仰と確信を持って祈りましょう。イエスは『あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている』(ヨハネ16:33)と言われたのです」
「この恐ろしい行為は、私たちすべての心に重くのしかかっています」。米国カトリック司教協議会(USCCB)会長のダニエル・ディナルド枢機卿は、事件に対する深い悲しみを表明し、犠牲者の遺族に慰めのメッセージを送った。「どうか1人ではないことを知ってください。司教たちの祈り、またすべての教会の祈りが、あなたと、亡くなられたあなたの愛する人と共にあります」
米国を代表する大衆伝道者であるグレッグ・ローリー牧師は、事件が2001年の米同時多発テロの現場となった世界貿易センターのすぐ近くで発生したことに言及し、次のように語った。「このような暴力と憎しみによって、私たちの信仰の土台が揺るがされてはなりません。クリスチャンとして、力を出しましょう。最後には、あらゆる悪が打ち負かされ、善と愛が勝利することを知っているのですから」
現地の報道によると、サイポフ容疑者は2010年、抽選で永住権(グリーンカード)が与えられる「移民多様化ビザ」で米国に移住。13年にウズベキスタン系の女性と結婚し、子ども1人がいる。オハイオ州、フロリダ州を経て、今年、ニューヨークに隣接するニュージャージー州に引っ越してきた。トラックや配車サービス「ウーバー」の運転手などをしていたという。事件の約2カ月前に具体的な計画を決め、事前に車を借りて運転の練習をするなどしていた。
一方、事件で犠牲となった8人のうち、5人は48、49歳のアルゼンチン人だった。専門学校卒業30周年を祝うために集まった友人グループだったという。グループのうち1人は負傷して病院で手当を受けている。この他、米国人2人と、31歳のベルギー人女性が犠牲となった。ベルギー人女性は3歳と3カ月の息子を持つ2児の母親で、自身の母親と姉妹2人と共に約1週間の予定でニューヨークを訪れていた。