世界最大手の競売会社クリスティーズは10日、レオナルド・ダビンチのキリスト画「Salvator Mundi」(サルバトール・ムンディ=「救世主」の意味)を、競売に掛けると発表した。現存するダビンチの作品は世界に20点もなく、本作以外は博物館などが所蔵しており、個人所有の作品としては唯一のもの。予想落札価格は1億ドル(約112億円)に上る。
作品は、大きさが高さ約65センチ、幅約45センチの油彩画。1500年頃に描かれたと見られており、水晶の玉を左手に持ち、鮮やかな青と真紅(しんく)のローブに身を包んだキリストが描かれている。
クリスティーズの絵画に関する上級専門家であるアラン・ウィンターミュート氏は、「この作品は、再発見された芸術作品の中で本当に渇望されている作品です」と言う。「モナ・リザ」の男性版とも言われ、これまで長い間、喪失したか、破棄されたと考えられていた。
この作品の名が最初に登場するのは、17世紀の英国王チャールズ1世の個人的なコレクションに関する記録の中。1763年に競売にかけられ、その後1900年まで所在が分からなくなっていた。またそれまでに、キリストの顔と髪の部分が上塗りされていた。ウィンターミュート氏によると、これは当時よく行われていたことだったという。
1958年に、別の競売会社サザビーズで米国の収集家に当時45ポンド(約6600円)で売却され、2005年に上塗りされた複製品として再び売りに出された。
新しい所有者が修復作業を行い、約6年にわたる鑑定の結果、複製品ではなくダビンチが500年以上前に描いた本物の作品であることが分かった。2011年には、英ロンドンのナショナル・ギャラリーで展示され注目を集めた。
現在の所有者は欧州の収集家で、本物と判明した後に作品を購入したという。クリスティーズは、所有者の名前を明らかにしていない。
香港、ロンドン、サンフランシスコで一般公開され、11月15日にニューヨークで行われる競売展「戦後と現代の美術」に出品される。
「戦後と現代の美術」ではこの他、米国の芸術家アンディ・ウォーホルが亡くなる1年前に残した遺作「Sixty Last Suppers」(60の最後の晩餐、1986)も出品される。これは、ダビンチの「最後の晩餐」を、キャンバス地に合成ポリマとシルクスクリーンインクを使って60枚描き、並べた作品。高さ約3メートル、幅約10メートルある巨大な作品で、落札価格は5千万ドル(約56億万円)と予想されている。