「なぜ彼らが私を殺さなかったのか、どうして私の手を縛らなかったのか、私には分かりません」
イスラム武装組織に昨年3月に誘拐され、今月12日に解放されたインド人神父が、滞在先のローマで記者団の取材に応じ、18カ月間にわたった試練の日々について語った。
カトリックの修道会「サレジオ会」に所属するインド人のトーマス(トム)・ウズナリル神父(57)は昨年3月4日、武装組織が中東のイエメンにある施設を襲撃した際に誘拐された。カトリック系のCNS通信(英語)によると、ウズナリル神父は、唯一知っていたアラビア語「アナ ヒンディーン(私はインド人です)」という言葉を、襲撃者たちに話したという。
「恐らく、彼らは幾らかの身代金か、何でもいいから何かを欲しかったのです。『私はインド人です』と語ったとき、神がこの言葉を彼らの頭に吹き入れてくださったのではないかと、ただそう信じています。彼らは、他の人たちや修道女たちを殺害している間、私をそこに座らせました」
武装組織が襲ったのは、イエメン南部の都市アデンにある施設で、マザー・テレサが設立したことで知られる女子修道会「神の愛の宣教者会」が、高齢者と障がい者のために運営していた。ウズナリル神父の命を奪うことはしなかったが、武装した襲撃犯たちは、施設にいた修道女4人を含め15人近くを殺害した。
落ち着きを取り戻した様子で話したウズナリル神父は、「私は今日、安全と健康、明瞭な精神を保ってくださった全能の神に感謝します。私の感情は今まで制御されていました」と語った。しかし、殺害された修道女たちについては、「あまりにも感情的になってしまう」と言い、詳しくは語らなかった。
ウズナリル神父は現在、体調回復のためにローマのサレジオ会本部に滞在している。記者団には、拘束されていた間、毎日どのように聖体拝領を行ったか、また教皇や司教、殺された修道女やその他の犠牲者たちのために、いかに祈りの時を過ごしたかも明かした。
拘束されていた間、慰めとなったのは「One day at a time, sweet Jesus(一日一日、愛するイエスよ)」という賛美だという。
「行う必要があることを毎日行う力をお与えください。愛するイエスよ、昨日は過ぎ去り、明日は決して来ないかもしれません。主よ、今日私を助けてくださり、私に一日一日その道を示してください」
明日が見えない中、毎日のようにこのように祈り求めた。
ウズナリル神父自身は解放に至った詳細をほとんど知らなかったが、解放のために働き掛けたとされる、イエメンの隣国オマーンのカブース・ビン・サイード国王やインド当局、ローマ教皇フランシスコ、バチカン(ローマ教皇庁)に感謝を伝えた。特に教皇とは、解放翌日にバチカンで面会しており、ひざまずいて足にくちづけをして感謝を示した。