キリスト新聞社社長で「キリスト新聞」「ミニストリー」編集長の松谷信司氏が司会を務めたトークライブ「魅せます!本づくりの舞台裏 意外に知らない『人文書』の世界」(主催:キリスト教出版販売協会)が5日、カトリック麹町教会(聖イグナチオ教会。東京都千代田区)ヨセフホールで開催された。「本が売れない」「活字離れ」と言われる今、著者や編集者、書店員がそれぞれの立場から「本づくり」について真剣に切り結び、そのやりとりに約180人が耳を傾けた。
5人のゲストのうち3人はそれぞれ、福音派、カトリック、主流派から選ばれた。学生伝道団体であるキリスト者学生会(KGK)総主事で、『自由への指針』(教文館)などの著書のある大嶋重徳氏(鳩ヶ谷福音自由教会)。マザー・テレサの言葉を紹介する『世界で一番たいせつなあなたへ』(PHP研究所)などを著しているカトリック宇部教会主任司祭の片柳弘史氏。バルトやボンヘッファーなどの神学書を長年出し続けている新教出版社社長の小林望氏(日本基督教団信濃町教会)。
そして、一般のフィールドでキリスト教書を手掛け、販売している2人が加わっているのが今回のトークライブの特徴だ。
新潮社出版部新潮選書編集部の三辺直太氏は、森本あんり著『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』や来住英俊(きし・ひでとし)著『キリスト教は役に立つか』を最近手掛け、ヒットさせている。この日は会場に著者の来住氏の姿もあった。
入店以来10年間、人文科学書を担当し、常にキリスト教書に触れていたというジュンク堂書店池袋本店副店長の喜田浩資氏は、棚に置きたいキリスト教書として、佐藤優氏、来住英俊氏、架神恭介氏、森本あんり氏、深井智朗氏などの著書を挙げた。また、「悩んでいる時、助けてほしい時に読む本として、スピリチュアル本が今よく読まれている」と現場の実際を明かしてくれた。
前半は、「自分の仕事は正しく理解されているか」「今注目している書店がある」「昔から本に携わる仕事がしたかった」など6項目の質問を〇╳で聞き、その答えの理由をそれぞれに尋ねるかたちで進められた。後半は、来場者からの質問を受け、「本が売れないというのは本当か」「売れる人文書の条件とは」「本づくりにあたって心掛けていること」「他宗教の書籍と比べての違い・印象」「キリスト教出版に対する提案・注文」などについて聞いた。
新潮社の三辺氏は言う。「『本が売れない』と言われるようになってから20年たち、危機感は持っているが、ミクロ的に見れば売れている本はあり、ヒットを出す編集者もいる。一人一人のミッションを見れば、まだできることはあるのではないか」
一方、書店の現場をよく知るジュンク堂の喜田氏は、「客の高齢化が進み、どんどん書店に足を運べなくなってくるのでは」と危惧する。
新教出版社の小林氏は、売れる人文書としてトマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)を例に挙げた。「6千円近くするにもかかわらず、12万部以上売れた。メディアが盛り上げてくれたということもあるが、『格差』というテーマに正面から取り組んだことが読者の心をつかんだのではないか。このように、われわれの抱えている問題に影響を与える本であるかどうかが問われている」
KGKの大嶋氏は次のように語った。「キリスト教書としての良い本とは、『イエスと出会える本』でなければいけない。一般書であっても、物の見方を変え、違った扉を開けてくれる本、行き詰まっている時に他のことを見させてくれる本が良書ではないか。学生時代にサマセット・モームの『雨』を読んだとき、そこに自分のことを言い当ててくれる言葉があり、大きな衝撃を受けた。と同時に、それは、『こんなふうに言ってくれた』という本との出会いだった。読む人の心を言い当てる言葉を持つ書き手を見いだし、育てることが今求められている」
最後に片柳氏は、本を取り巻く現状について次のように語った。「やはり、売れる本を作れなくなった責任が大きい。どの本を読んでも、似たようなありきたりな言葉が多すぎる。買わなくてもいいような本が増えれば増えるほど、ますます本を買わなくなる。時間をかけて1冊1冊丁寧に本を作ってほしい」
片柳氏は、フォロワーが5万人を超すツィッターでの自身のつぶやきをまとめた本を近々出版する。このつぶやきは、フランシスコ教皇が「人を助けたいと思う瞬間に、天から聖霊が降りて言葉を与えてくれる。苦しんでいる人と向かい合う時、言葉が生まれる」と語ったことを実践したものという。片柳氏は、「これからも新しい言葉を一緒に作っていきたい」と締めくくった。
トークライブに参加したカトリック信徒の女性は、次のように感想を語った。「著者、編集者、書店の立場から本を取り巻く現状について話が聞けて面白かった。特に、『宗教に抵抗のない人がスピリチュアルに向かっていく』という書店の方の話には驚いた」