こんな時にどうするQ&A 聖書的原則と私の体験(6)
働くことへの不安をどう解消するか
働くことへの不安は、どこから来るのであろうか。考えられる幾つかの不安要因と、それに対する対応方法について述べる。
(イ)根源的(内面的)な要因から来る不安
これは働くことそのものへの不安の前に、根源的(内面的)な要因による不安を抱えており、それが結果として働くことへの不安を生み出している場合である。根源的な要因から来る不安としては、自己の存在に対する不安や、心が病んでいることによる不安等を挙げることができよう。
自己の存在に対する不安は、人が自分の存在を、未知なる死や広大な世界や宇宙等との関連で思いめぐらすときに、心に溢れてくる孤独感や恐怖感によるものであり、それは人が原罪を有することによって、神と断絶していることから生じるものである。
そのような不安を抱いている人は、自分の人生に対する根源的な希望や喜びを持つことができない。罪ほど、恐ろしい人の不安を生み出すものはない。詩篇38:18に「私は自分の咎を言い表し、私の罪で私は不安になっています」とある通りである。そのような不安は、罪を赦(ゆる)されることによってのみ解消され得るため、福音による救いと神の愛とを伝えることが必要である。
また、心が病んでいることによる不安は、心身症的症状や神経症的症状等によって、心が人としてあるべき本来の正常な状態から離れていることから生じる。従って、そのような不安に対しては、精神医学的な治療や聖書的カウンセリング等を受けることによって、むなしさ、荒廃した心、自己疎外、生きる意味の消失等、否定的な思いや感情から解放されることが必要である。
(ロ)未知のことに対する恐れから来る不安
これには、働くということの意味が分かっていない場合や、未知のことに対して恐れを持つ場合等が考えられる。
働くということの意味が分かっていない場合には、人が働くことは人の創造と一体化されたものであり、根源的なものであること、従って、労働しないということは、生きることを放棄するに等しいことであることを、理解するよう導くことが大切である。
人は本来、労働と宣教の両方に召されている者であるということ、また労働は必ずしもお金を得るためのものではないことを、覚えることも必要である。さらに、労働を神のためと人のためと世のためになるよう行うとき、必ず主の助けがあり、不安に思う必要のないことを知ることも有益である。
また、未知のことに対して恐れを持つ場合には、新しいことにチャレンジする勇気がないことや、何をしたいのか分からないこと等のために、就職を前に考え込んでしまい、立ちすくんでしまうことや、行き詰ってしまうことが多いことを覚えることが大切である。
これは、社会との関係を築けずこもってしまう人に多く見られる。従って、そのような場合には、まず社会との関係を築けるよう導くこと、また人生の目的をきちんと持つよう導くことが先決である。
(ハ)苦しみへの嫌悪や逃避的思考から来る不安
これには、働くことによって苦しみや困難に遭うという不安を持つ場合や、過去の傷や経験から不安を持つ場合等がある。
働くことによって苦しみや困難に遭うという不安は、苦しみや困難に立ち向かう気力や意思が弱いこと、また主体性がないこと等から来ることが多く、何とか苦しみや困難から逃避しようとする。現在、若年者にこの傾向が強いといわれている。
苦しみへの嫌悪や逃避的思考から来る不安を取り払うためには、思い煩いを神に委ねることが有効である。Ⅰペテロ5:7に「あなたがたの思い煩いを、いっさい神にゆだねなさい。神があなたがたのことを心配してくださるからです」とある通りである。
また、過去の傷や経験から来る不安は、いったんは就職したもののつまずいて早々に辞めてしまう等、過去の傷や経験によって働くことに自信を喪失したことや、再びそのような目に遭いたくないと思うこと等から来ることが多いと思われる。それは、仕事の内容と自分の技術や技能とのミスマッチから起きると思われるため、能力開発等によって、ミスマッチを解消するよう導くことが大切である。
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(参考並びに引用資料)
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