京都市左京区岡崎町の平安神宮近くにあるユダヤ教正統派の「ハバットハウス京都」では、月1回「ユダヤ伝統料理教室&コーシャ認定日本酒、ワインの宴」という催しが行われている!ということで、2月の中旬に参加させていただいた。
この集まりを主催しているのは、ユダヤ教超正統派ハシディズム・ハバッド派ラビのベンヤミン・エデリーさんだ。ベンヤミンさんが日本に来たのは19年前になる。現在は9人のお子さんと奥さんと生活している。「9人とも日本生まれのメイド・イン・ジャパンです!」とウインクした。
また東京で「コーシャ・ジャパン」という会社を経営し、日本食のコーシャ認定や、コーシャ食品の製造、輸出などのコンサルティングやビジネスサポートなども行い、これまで、獺祭(だっさい、旭酒造)、南部美人、小黒酒造などの日本酒、和田万(ごま専門メーカー)、古賀製茶本舗、山本海苔店や、味噌やしょうゆ、かつお節、昆布、葛、そば、そうめん、わさびなどのコーシャ認定にチーフアドバイザーとして関わり、ペニンシュラやリッツカールトン、ヒルトンなどのホテル、国内外のエアラインにコーシャ食品を供給しており、テレビ東京の「カンブリア宮殿」や「ワールドビジネスサテライト」にも出演したという!
この日のユダヤ伝統料理体験会に参加したのは8人、記者含め3人はクリスチャン。さらに大学でロシア正教を研究する研究者の女性や、イスラエルに留学していた大学院生、アラブ首長国連邦で日本語教師をしていた女性などなど。やはり皆さん異文化への興味が強い方たちばかりだった。
コーシャ認定日本酒で「レ・ハイーム(乾杯)!」
この日は、まずベンヤミンさんの会社で扱っているコーシャ認定日本酒が振る舞われた。海外では、すしや刺身などの日本食がブームになり、今や「日本食」として定着しているのはよく知られているが、それに合わせて「日本酒」も少しずつ認知度が上がっているという。「コーシャ・ジャパン」では、今日本でも大人気の「獺祭」「嘉山」など15種類のコーシャ認定された日本酒をイスラエルや米国に輸出しているという。
「レ・ハイーム(乾杯)!」と掛け語を掛けて参加者一同杯を交わした。
獺祭といえば、今日本中で大人気の日本酒。まさか初めて飲む獺祭が「コーシャ獺祭」とは(笑)。グラスでいただくと、米から作ったとは思えないフルーティーな香りで、するりと喉元を通り過ぎていく。うん、これならいくらでも飲めそうである!(ちなみに、獺祭は初めてなので、普通の獺祭と「コーシャ獺祭」との違いは残念ながら分かりませんでした[笑])
さらに「これも食べてください」とベンヤミンさんが差し出したのは、なんと焼き芋! 安納芋という種類で、まるではちみつみたいにとろけて甘くて実においしいのだ。「アメリカなど海外にもスイートポテトなどはありますが、焼き芋はまた全然違っておいしいと人気なんです」
ユダヤ伝統料理と日本酒
この日の料理は、ゴマをすりつぶし、レモンや塩オリーブで味を調えたペースト「タヒリ」、さらに旧約聖書にも登場するヒヨコ豆を一晩水につけて煮てマッシュした「フムス」、さらにナスとトマトの煮物などなど。パンにペーストをつけていただくと、滋養豊かな味がしておいしい。
さらに、この日のメーンディッシュは、「ハレイメ」という魚料理。ユダヤ教では毎週金曜日には魚料理を食べるのだという。銀ダラに、スライスしたニンジン、ポテト、赤・黄ピーマンを入れ、ニンニクをオリーブオイルで炒める。そこにレモンジュースとトマトの水煮、チキンスープを入れて、魚が柔らかくなったところにパセリ・コリアンダーを入れて30分ほど弱火で煮込んで出来上がりだ。
調理に使う塩、オリーブオイル、チキンスープの素など香辛料も全て「コーシャ」だ。
出来上がりをいただくと、ほどよい香辛料の味付けに脂がのったギンダラがとてもおいしくて、思わず箸が伸びてしまった。
コーシャ(コシェル)とは?
さて、ベンヤミンさんによると、実は「ユダヤ伝統料理」といっても、実にバラエティー豊かで一概にこれとは言えないのだという。ユダヤ人は世界中に住んでいる。そして、イスラエルはその世界各地からの移民によって形成された国家、現在も人口の半分はイスラエル以外で生まれた人々だ。
ベンヤミンさんもイスラエル生まれだが、ご両親はモロッコ生まれ。移民たちは自身の土地の文化やアイデンティティーによってさまざまな料理を作る。例えば、モロッコならクスクスなどの北アフリカ料理、東ヨーロッパならジャガイモなど、アルゼンチンなど南米なら肉。自身の生まれた土地によって、さまざまな郷土料理の文化がある。しかし、どのような土地でも「コーシャ」は守られているのだという。
コーシャフードは、「旧約聖書」の定めにのっとり、ユダヤ教徒が食べてもいいと認められた清浄な食品のことだ。非常に厳しい基準をクリアし、さらに抜き打ち検査も行われ、品質を管理された食品のみが「コーシャフード」と認定される。
ベンヤミンさんは言う。「コーシャには3つの意味があるのです。1つ目は体を大事にすること。だから2つ目は朝起きてから眠りにつくまでずっと体を大切にすることにつながります。そして3つ目にコーシャはユダヤ人のアイデンティティーの1つ、いわば日々の法律のようなものなのです」
スライドを見ながら、ベンヤミンさんによる「コーシャ講座」が始まった。
ラビのベンヤミンさんの「コーシャ講座」食材、調理、食べ方、プロセスまで
コーシャには、まず食材により「食べられるもの」と非コーシャ「食べられないもの」に分けられるという。肉ならば、牛、羊、ヤギ、鹿はOK。一方、豚、馬、ウサギ、犬、ラクダなどはNGだ。また鶏肉は、鶏、アヒル、鴨、キジ、ハト、ガチョウはOK。一方、鷺、カモメ、カラス、ダチョウなどはNGだ。
魚は、海と川の魚、さらに海苔や海藻などはOK、一方、うろこのないタコ、イカ、エビ、カニ、貝類やうなぎ、アナゴなどはNGだという。そのほか、アルコール、穀物、野菜、果物、塩、砂糖などはOKだが、虫などが混入しないようにしなければならない。
また肉のと殺や、ワインの加工などにも非常に厳格なルールがある。例えば、鶏を殺すときは、殺してからすぐに30分間冷たい水に浸し、その後1時間は塩に漬けるという。そして、血を完全に抜き、さらに3回水で洗うなどというプロセスを経なければならない。
さらに、食べ方にも規定がある。肉と乳製品を一緒に食べてはならない。だからチーズバーガーはNG。肉を食べてから、乳製品を食べるまでには6時間程度の間隔を空けなければならない。また肉と魚介類の混食は基本的には許されないが、肉と乳製品ほどの厳格さはないという。
厳格なユダヤ教の家やコーシャのレストランなどでは、肉と乳製品はそれぞれ専用の調理場があり、別々の調理場で調理されるようになっており、食材の扱い方、火のつけ方など調理のプロセスごとにコーシャの担当者がきちんとチェックするという。
「コーシャ・ジャパン」が日本酒のコーシャ認定を行う際は、まず原材料(水・米・酵母・麹菌・乳酸)について、虫の混入がないか、保管、原産地の確認、ポンプ・フィルターの確認などが行われる。さらに、醸造プロセスにおいて、許可された原材料や添加物以外のものが入っていないか、施設や製造計画の現場立ち合いでの確認、物品購入履歴の開示、ラベルの管理など、1、2カ月にも及ぶ厳格な認証プロセスを経て、ようやく「コーシャ認定」を得ることができるという。
ベンヤミンさんによると、欧米などでは、化学添加物を使わない、安心して食べられる自然食品としての信頼が定着しているという。また、イスラム教のハラールフードやベジタリアンフードと同様、海外の国際会議や国際線の機内食などにも必ず用意されており、米国・カナダ・イスラエルを中心に世界での食品市場規模は約10兆円以上に上るのだという(!)
また、かつて米国で「コーシャコカ・コーラ」を販売するときには、ユダヤ教のラビが、コカ・コーラ本社に行って、コカ・コーラ製造のための秘密の「レシビ」を見せてもらい、製造プロセスをチェックすることでようやく製品化されたという(!)
近年はコーシャ認証された日本食品も少しずつ増え、高品質の「お墨付き」で日本食品を海外に売り込む際の大きなステータスになっているのだという。
コーシャ日本酒のグラスを片手に何度も「レ・ハイーム(乾杯)!」し、ジョークを交えながらコーシャやまだ知らぬユダヤ教について語ってくれるベンヤミンさんのお話を伺い、飲み、食べするうちに、京都の楽しい異文化体験の夜はあっという間に更けていくのだった・・・。
ハバットハウス京都では、毎月の「ユダヤ伝統料理教室&コーシャ認定日本酒、ワインの宴」のほか、毎週金曜日夜7時からも食事会を行っている。初めての参加者も大歓迎だという。興味を持たれた方はぜひ参加されてみてはいかがだろう。
問い合わせは、ハバットハウス京都の問い合わせフォームから。