宗教的少数派の保護を目指す刑法の修正法案が6日、パキスタン議会を通過した。パキスタンでは、キリスト教徒などの宗教的少数派が集団リンチ(私刑)で殺されたり、イスラム教へ強制的に改宗させられたり、女性や少女たちがイスラム教徒の男性と強制的に結婚させられたりすることがあり、修正法案はこうしたことから少数派を守ることを狙いとしている。
英キリスト教メディア「プレミア」(英語)によると、「刑法修正法案2016」(英語)と呼ばれるこの法案は現在、大統領の署名待ちの状態にあり、このままいけば成立する見通し。
法案には、宗派間抗争の扇動に対する懲役刑の刑期延長や私刑の禁止、未成年の婦女子の強制改宗や強制婚を罰する内容などが盛り込まれている。パキスタンのキリスト教徒は長年、こうした迫害に苦しんできた。
しかし、英国パキスタン・キリスト教協会(BPCA)のウィルソン・チョードリー議長はクリスチャンポストに対し、法案は「単なるリップサービス」に過ぎない疑いもあると語った。
「暴動に対しては既に執行可能な法律が存在しますが、ほとんど執行されていません。執行されても功を奏しません。証人が恐れて、裁判を欠席してしまうからです」
チョードリー氏は、イスラム教の預言者ムハンマドを冒涜(ぼうとく)したとして、キリスト教徒の住宅150軒余りが焼かれた2013年の事件で、115人の容疑者が全員無罪判決を受けた近年の判決を例に挙げた 。
「問題の核心は法の執行にあります。贈収賄が横行しており、キリスト教徒は『儀式的に汚れている』と言われて憎まれており、警察官には法を守ろうとする意欲がありません」
しかし、キリスト教団体の関係者の中には、法案の成立で肯定的な変化が起こると期待している人もいる。その1人は、パキスタンのNPO「明るい未来協会」のサミュエル・ピャラ会長だ。
「これらの措置は、わが国を救うためには不可欠なものです」「暴徒による私刑というやり方が民衆の間で一般的になっていますので、それを犯罪として処罰できるようにする必要性が非常に高まっていました。ですから私たちは、政府の行動に感謝しています」と、ピャラ氏はカトリック系通信社「アジア・ニュース」(英語)に語った。
パキスタンに本部を置くイスラム系国際NGO「ミンハジ・ウル・コーラン・インターナショナル」の異宗教間関係構築担当ディレクターであるソハイル・アフマド・ラザ氏は、キリスト教徒やヒンズー教徒の女子の誘拐や強制婚が間違ったものであることは明白だと述べた。
「誘拐や強制婚は、道徳的、法的、社会的、人間的レベルにおいて誤った行為です。強制婚はシャリア(イスラム法)で許容されていますが、無学の結果でもあります」とラザ氏は述べ、「モスクのスピーカーを使って憎悪や暴力を駆り立てる人々は常軌を逸しており、倒錯しているのです」と付け加えた。
例えば、刑法第198条などの修正は、イマム(イスラム教の指導者)による憎悪の扇動からの保護を提供するように見えるのは確かだが、チョードリー氏はクリスチャンポストに、現行の法律が既に暴力に反対してきたはずだと繰り返し語った。
「私の認識では、問題の核心にあるのは宗教指導者を相手にすることの恐れです。しかしこの修正法案は、警察や裁判所を強制的に行動させることになるかもしれません。ただし。最大で懲役3年、または50万ルピー(約85万円)の罰金というのは甘過ぎます」とチョードリー氏は付け加えた。
刑法第498条B項における修正は、厳罰化により非イスラム教徒や子どもたちを強制婚から守ることを目指しているが、チョードリー氏は、本格的な改善をもたらすには不十分だと考えている。
「現行法の乱用を考慮すると、警察や司法機関の組織的失態が常態化しているため、この法改正が大きな影響を及ぼすとは考えにくいと思います」とチョードリー氏。「わずかな益はありますが、現実的にはこれらの修正が実施されても、パキスタンのキリスト教徒や少数派が直面する状況はほとんど変わらないでしょう」と語った。