米退役軍人の有志らによる市民団体「ベテランズ・フォー・ピース」が、11月初旬に来日。全国で講演会やトークショーを行った。
11月24日には、東京・銀座の教文館で「ピースのことをベテランズと話そう」と題したトークショーが行われ、東京に大雪警報が発令される異例の事態にもかかわらず、用意した50席あまりは満席となった。
トークショーを行ったのは、元米軍海兵隊員のマイク・ヘインズさん(40)。1994年に入隊し、98年に1度除隊するが、ニューヨーク同時多発テロを機に2000年に再入隊。03年には、海兵隊特殊偵察部隊であるフォースリーコンとしてイラクに派兵。約3カ月間、イラク戦争の第1線で戦闘を経験した。
退役後は、イラクでの戦闘体験がトラウマとなり、激しいPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状に苦しむ。現在でもなお、イラクでの戦闘場面を思い出す日もあるという。
トークショーは、ヘインズさんの謝罪から始まった。
「元米国軍人を代表して、私の国が広島、長崎に投下した原爆によって罪のない多くの人々の命を奪ってしまったこと、東京や他の地域でも空襲によって家屋を破壊して多くの命を奪ったことを、まず初めに心よりお詫びしたい。沖縄に関しても、とても責任を感じています。私は19歳の時に沖縄に駐留した経験があります。この小さな島に32もの米軍基地があり、今も沖縄の皆さんを苦しめていることに心よりお詫びを申し上げたい」と言葉を選びながら話した。
この日は、女性の参加者が多く、ヘインズさんは「私は、イラクで仲間を殺された経験があります。また、その後のトラウマのために自殺をしてしまう仲間もいました。そうした一つ一つの死に関わる中で、一番心を痛め、悲しむのは母親であるということを感じています。私もイラクに派兵されるときには、母親に大きなストレスをかけてしまいました。しかし、日本には憲法9条がある。これは、世界にとっての希望の星ともいえるのではないでしょうか。現在、この憲法解釈によって、いろいろな論議がされていると聞いています。日本が米国追従の姿勢を加速させ、いつの日か、皆さんのお子さん、お孫さんを僕のようにいつの間にか戦場に送る日が来てしまうのではないかと危惧しています」と語った。
米国では、どのように「軍隊」を子どもたち、また学生たちに認識させ、リクルート活動を行っているのだろうか。ヘインズさんは、2カ月前に訪れたカリフォルニア州サンディエゴで行われた航空ショーの模様を紹介した。
航空ショーでは、戦闘機による曲芸飛行を見ることができるが、地上ではさまざまなアトラクションが行われ、ヘインズさんは「まるで『戦争』をモチーフにした遊園地」のようだと表現した。父親や母親に連れられた子どもたちは、武器をまるでおもちゃのようにして構えるふりをして喜ぶのだ。「戦争を経験した僕から見ると、とても異様な光景だった。あの武器はおもちゃでもなんでもない。目的はたった1つ。人を殺すものだからです」と話した。
ヘインズさんが紹介した写真の中には、兵隊が施すフェイスペインティングをして、かわいい笑みを浮かべながら銃を構える子どもや、戦車の上に乗って無邪気に遊ぶ子どもの姿があった。
こうした「楽しい」アトラクションを経験した子どもたちは、まるで遊園地にでも行ったかのように「楽しい子ども時代の思い出」としてそれを胸に刻み、「戦争」や「軍隊」には大きな抵抗もなく育っていくというのだ。
ヘインズさんが生まれ育ったのは、米ジョージア州。「バイブルベルト」と呼ばれる中にあるこの州では、宗教的にも非常に保守的で愛国心も強く、そのような環境の中に育ったヘインズさんにとって、軍隊に入るということは自然の流れでもあった。
ヘインズさんが配属されたのは、イラク戦争勃発直後、極めて初期の段階で侵攻していった部隊の1つだった。バグダットに到着するや否や、すぐに襲撃は始まった。その数は、1日に2件から4件。当然、襲撃は、事前に情報収集をしている司令部からの命令によるものだった。しかし、その情報の約6割は全く間違ったものだったという。
彼らは、命令が下ると軍の車両でバグダットの民家でも施設でも、どこへでも駆け付け、ドアを爆破し、中に押し入り、家族だんらんの時であろうと、子どもがそこにいようと、構わず銃を構え、突入した。
今でもヘインズさんの脳裏にこびり付いて離れないのは、まだ幼い6歳くらいの少女の声だという。彼らが突入していくと、恐怖に震えた少女は、泣き叫んでいた。
時を同じくして、ヘインズさんは女の子の赤ちゃんを授かっていた。自分の娘と泣き叫ぶ少女を重ね合わせ、受けたショックはあまりにも大きかった。その少女の泣き声を思い出しては、今でも寝られない夜があるという。
押し入った先で従軍可能な年齢の男性を見つけると逮捕した。「彼らが生きて家に帰れたとは、僕には思えない」と語る。
「『テロ』と戦うためにイラクにやって来たのに、自分たちがやっているこの行為こそが『テロ』だったと気付いた。このようなことを繰り返していたら、米国に対する憎悪が増すのは当たり前だと思った」とヘインズさんは話した。
帰国した後は、戦地に出向いたことで、国や地方自治体からも称賛され、「米国のために戦ってきてくれてありがとう」と声を掛けられた。しかし、この言葉はさらにヘインズさんを苦しめた。自分のしたことは、国のためではなく、軍産複合体、大企業の利益のためだったというのが実感だった。
PTSDに苦しむ元軍人は、決して少ない数ではない。「データによると、1日22人の元軍人がPTSDのために自殺をしていると出ている。その数は、戦死者よりもはるかに多い」と話す。
「イラクの経験から自分が言えることは、これからの子どもたちは、情報を鵜呑(うの)みにしないことが必要。いつでも疑問を持ち続けてほしいと思う。『こんな力でねじ伏せる戦争で平和を構築するなんて、どこかおかしくないかな』『もっといい方法があるのではないか』といった視点を持つことが大切なのでは。そうすれば、『戦争で解決するなんて、古臭い考えはもうやめよう』という結果が生まれると思う。今までの固定概念を覆す力と努力を」とメッセージを送った。
また、ヘインズさんが敬愛し、最も尊敬しているのはマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師だと語り、キング牧師の語った「平和を愛する人たちは、戦争をする人と同じく組織だって行動しなければならない」という言葉を引用し、「日本人は組織を作ることに長けている。さらに、日本には類いまれなる平和の力がある。それは憲法9条があるということ。70年の間、平和を守ってきた日本は、世界を平和へと導く力があるのだと私は思います」とトークを締めくくった。