奇跡のテノール、ベー・チェチョル氏出演の「ベー・チェチョル&日野原重明クリスマス・コンサート」(ヴォイス・ファクトリイ株式会社、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会共同主催)が3日、東京都新宿区の同教会で開催された。コンサートをプロデュースしたのは、105歳の現役医師でもある聖路加国際病院名誉院長の日野原重明氏。まさに2つの「奇跡」によって生まれたコンサートに、600人以上が集まり、魂に響き渡る命の歌声に酔いしれた。
ベー・チェチョル氏は、「アジアのオペラ史上最高のテノール」と称されながらも、2005年にがんによって声を失ってしまう。しかし、多くの日本のファンの支援のもと、声帯機能回復手術によって声を取り戻し、奇跡の復活を果たした。厳しいリハビリの日々を送る姿は、NHK「BSハイビジョン特集」で紹介され、その不屈の魂は、「ザ・テノール真実の物語」として映画化されている。
この日のコンサートでは、ベー氏の才能にほれ込み、日本に紹介し、声を失った後もずっと彼を信じて支え続けたヴォイス・ファクトリイ代表取締役の輪嶋東太郎氏がナビゲーターを務めた。輪嶋氏は、「ザ・テノール真実の物語」の中で伊勢谷友介が演じる日本人プロデューサーのモデルでもある。あいさつの中で輪嶋氏は、同コンサートが、私たちを愛し、心の平安を与えてくださったイエス・キリストを皆さんに伝えたいとの思いで、日野原氏とベー氏が共に全国で行っているコンサートの1つだと伝えた。
続いて、体調不良のため、コンサートに出席することができなかった日野原氏のビデオメッセージが紹介された。日野原氏は、「子どもの時は、食べることも、遊ぶことも、勉強することも一生懸命自分のためにやって、大人になったら、自分の命を誰かのために使うのだ」と語った。そして、忙しい生活をしていても、自分には「人のために生きる」という使命があり、それが生きがいとなっていることを話し、「生きがい」が元気の秘訣でもあると明かした。
また、生きがいを教えてくれたのは、ハンセン氏病患者に奉仕した神谷恵美子だと述べ、「さまざまな病気を抱えながら、それでも最後まで神様が、自分を生かしてくださることに感謝の心を表し続けていた神谷さんが心に残っている」と語った。そして、たとえ病気であっても、生きがいさえあれば命を輝かせることができると話した。その上で、大きな苦難に遭いながらも、それを乗り越え、再び歌えるようになったベー氏について語り、「ベーさんの歌を心に感じながら、皆さんと一緒に聞けることは幸せなこと」と喜びを表した。
その後、ベー氏が奇跡の復活を遂げたことを紹介するビデオが流れ、その中で手術後、神から与えられた第2の声で初めて歌ったのが、賛美歌「輝く日を仰ぐとき」だったことが明かされた。この時は、自然にこの賛美が口から出てきたのだという。ベー氏は、「『輝く日を仰ぐ時』の歌詞は、神様こそ全世界を、万物をお創りになったことを歌っている。神は、私の声も創造してくださった。このように復活した声は神様の恵みです」と神をたたえた。
コンサートでは1曲目に賛美歌「主はわが羊飼い」を歌い、この賛美歌のもとになっている詩編23編をずっと握って歩いてきたことを話した。「道を外した羊そのものの自分を、神様は大きな御手をもって導き、どんな時でも恐れることはない、心配はいらないと神様から大きな平安を頂き、それにより命を保つことができ、歌手としての再出発を決意できた」と語った。ベー氏は、「皆さんも、イエス様を信じて、御言葉を握りしめて歩いていけば、人生は必ず勝利できます」と会衆を励まし、続いて「キリストにはかえられません」を日本語と韓国語で歌った。
また、声が出なくなり、使い物にならなくなった歌手を捨てなかった輪嶋氏を「ばか」だと言い、「13年間輪嶋さんは、神様を通じて、私を支え、私のためにいろいろしてくれました」と心からの感謝を述べた。そして会衆に向かって「私たちは、どんな問題があっても、神様は必ず御手を差し伸べてくださる。神様が生きて共にいてくださることを信じていきましょう」と語り、「タイム・セイ・トゥ・グッバイ(Time say to good-bye)」を歌った。輪嶋氏は、「古い過去に別れを告げ、君と共に旅立とう、共に手を取り合って未来に向かおう」という歌詞を引用し、「これは神と私たちの関係、さらには日本と韓国の関係を表していると思います。日本と韓国のためにもベーさんを応援してほしい」と呼び掛けた。
この日、2004年バッハの聖地ライプツィヒでデビューして以来、ヨーロッパ各地で活動するバイオリニスト斎藤アンジュ玉藻氏が特別ゲストとして出演した。演奏したのは、ライプツィヒでオールバッハプログラムでリサイタルデビューしたときに、「絶品」と評されたバッハのシャコンヌ。演奏後に、「バイオリンを演奏しているときは、神様が降りてくる感じがする」と述べる一方で、幼い頃最愛の父を亡くし、バイオリンを弾くことができなくなった時期があったことを明かした。そして、「その時に御言葉や、バッハの音楽によって助られ、私にも音楽で人を救うことができればと思った」と証しし、そのことが自分の力となっていることを語った。
ソロ演奏の後には、ベー氏と「天使の糧(パン)」をジャヤズセッション風に演奏した。さらに、日本を代表するゴスペルディレクター・池末信氏が率いるゴスペルチーム・ソウルマティックスが、力強いゴスペルで会場を盛り上げた。池末氏のオリジナル曲「スマイル」も披露された。
鳴りやまない拍手の中、アンコールでは、「アメイジング・グレイス(Amazing Grace)」「ユー・レイズ・ミー・アップ(You Raise Me Up)」、そして韓国の現代賛美歌「花にねむれ」を歌った。淀橋教会の峯野龍弘主管牧師が感謝の祈りをささげ、最後は出演者、会衆が一緒になって「きよしこの夜」を賛美し、神への感謝をもってコンサートは終了した。