英国ではここ数年、クリスマスの時期が近くなると、クオリティーやストーリー性の高いテレビCMが流れることが恒例となっている。いわば、クリスマス広告合戦である。これらは私たちを笑わせたり、時に泣かせたり、考えさせたりするものばかりだ。
どのCMも全て非常に面白く、中には素晴らしく良くできているものもある。英国国教会の教区牧師とイスラム教のイマム(指導者)の友情をテーマにしたアマゾンのCMは、真のメッセージがあり、心がほっとする内容だ(関連記事:アマゾンのクリスマスCMにキリスト教とイスラム教の本物の聖職者が出演)。
英百貨店チェーン「ジョンルイス」のトランポリンと動物たちのCMも面白い。これは、ある天才たちが作ったパロディー動画により、より注目を集めた。パロディー動画では、女の子とボクサー犬の顔が、それぞれヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏に置き換えられ、最後の一瞬で、犬になったトランプ氏が、女の子のクリントン氏のプレゼントを横取りするという、米大統領選の結果をモチーフにした内容になっている。犬になったトランプ氏がトランポリンで跳ねて喜ぶシーンは、何とも滑稽で、純粋なコメディーとして楽しめるだろう。
これらのCMは、とても明るく、創造的な人々によって、1つのことを目標に置いて作られている。つまり、売り上げだ。そして、彼らは実に、人々がクリスマスの時期に考えていること、人々が本当に大切だと信じていることに焦点を当てて制作している。彼らは人々の現実にある希望と夢、心配や欲望を挙げて、それらを自分たちのデザインに上手く組み込んでいるのだ。
教会は彼らから多くを学ぶことができるだろう。
教会は、ウェブサイトやポスター、チラシ、トラクトなどを用いてクリスマスを宣伝することは、繰り返し行ってきた。英国で良く用いられる教会のフレーズに、「クリスマスの本当の意味を発見しよう」「イエス様がこの季節(クリスマス)の本当の理由です」「クリスマスにキリストを取り戻そう」などがある。
しかしながら、よく考えてみると、これらの言葉はこういったメッセージを発していることにはならないだろうか。
「クリスマスは、実はあなたが思っているようなものではないのですよ。私たち(教会)はクリスマスが何なのか知っていますけれど、あなたは知りませんね。あなたは、もう分かったと思っているのですか? いいえ、まだ分かっていないでしょう」
これは、真っ向から対峙(たいじ)し、矛盾し、そして挑戦的だ。また、これらが良いマーケティング戦略といえるかどうかは、本当に疑問である。
■ M&S(マークス&スペンサー)
では、他のクリスマスのCMが伝えているメッセージについて考えてみよう。衣料品などを扱う英小売業者「M&S」(マークス&スペンサー)のCMでは、サンタクロースの妻が登場する。妻はサンタの夫が留守の間、問題ばかり起こしているある少年に頼まれ、その少年がいたずらをして困らせた姉に小包を届け、2人の和解を取り持つ。そしてサンタの夫より先に家に戻ると、何事もなかったかのようにソファに横たわっている。あまりにも良くありそうなストーリーだが、「赦(ゆる)し」と「家族」というメッセージが込められている。
■ セインズベリーズ
英スーパーマーケット「セインズベリーズ」のCMは、耳に残るジェームズ・コーデンの歌をBGMにしたストップモーションアニメだ。完璧なクリスマスを演出するために時間をつくろうと奮闘する父親に焦点を当てた内容になっている。だが現実は、「通りは人でいっぱいで、店も混んでいて、おばあちゃんが列の一番前ですごく時間を取っている・・・」という状況。そして最終的にはこう締めくくるのだ。「私が家族に与えることができる最高の贈り物を見つけたい ――私が与えることができる最大の贈り物は私だ」。クリスマスは物ではなく、人との関係だ。
■ ウェイトローズ
英食料品会社「ウェイトローズ」は、動物学者のデイビッド・アッテンボロー氏のスタイルで提供する「おかえり」という内容の話で皆を釘付けにする。小さなかわいいコマドリが信じられない旅をする様子が描かれている。イタチ、タカ、吹雪、海上の嵐にもめげず、少女が庭のテーブルの上に置いたミンチパイの所まで戻って来る。コマドリは実際には渡り鳥ではないが、私たちはこれが作り話ではない、実際のストーリーだと思ってしまう。というわけで、家庭が大事ということだ。
■ ジョンルイス
そして、今年最大の話題となっている英百貨店チェーン「ジョンルイス」のCMでは、トランポリンに飛び付く多様な野生動物たち、そしてボクサー犬のバスターが登場する。メッセージははっきりとしている。誰もが招かれている。受け入れられるということだ。
クリスチャンたちが、「いいえ、クリスマスは全然そういうものではなくて、幼子イエスのことです」と言ってしまうなら、それは墓穴を掘るようなものだ。
私は、クリスチャンが取り組んでいるメッセージに妥協することなく、もっと賢く柔軟に私たち自身を世に売り込むことができるのではと思う。なぜなら、私たちはクリスマスにキリストのことを伝えたいと思っているからだ。
しかし、クリスマスには、実はもともとはキリスト教のものではなかったという長い複雑な歴史がある。そして今や市場競争は、これまでになく激しいものとなっている。
だから、これらのCMを見て、神がもう既に与えてくれている贈り物をどのように世界に示していくかを己に問うことに時間を費やすことは価値がある。これらのCMは、特にキリスト教のテーマを反映しているというわけではないが、かといって全くキリスト教の要素が無いわけでもない。そこには、赦しと和解(M&S)、関係性(セインズベリーズ)、家庭(ウェイトローズ)、包含性(ジョンルイス)に関するアイデアを見ることができる。これらのことは全く悪いものではない。これらは私たちの信仰と矛盾していない。私たちは、ただそれらを否定する代わりに、キリスト教の話とそれらを結び付けて語ることができる。
私たちは、人々を十字架に導く架け橋をつくることができるのだ。
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マーク・ウッズ(Mark Woods)
バプテスト派牧師。ジャーナリスト。英ブリストル大学、英ブリストル・バプテスト大学卒業。2つの教会で牧会し、英国バプテスト連盟のニュースサイト「バプテスト・タイムズ」で7年間編集を担当。その後、英国のメソジスト系週刊紙「メソジスト・レコーダー」で編集顧問を務め、現在、英国クリスチャントゥデイ編集幹事。