エクストリームスポーツと音楽を通して福音を伝える「The Extreme Tour(エクストリームツアー)Japan 2016」が、10月1日から22日にかけて開催された。今年で4回目となるツアーでは、南米チリからゲストアーティスト「VICTORIANO(ビクトリアノ)」を迎え、愛知、東京、横浜、福島の4都市で教会やライブハウスを舞台に7公演を行い、さらにブッキングライブや路上ライブも行った。また、昨年に続いて、ホームレス支援伝道集会「上野よみがえり会」での賛美と炊き出しの奉仕にも参加し、出会う人々に福音を語った。ツアーのハイライトは、昨年発足した日本初のクリスチャンロック専門レーベル「Calling Records」が主催した下北沢でのライブ「BUSKING SERIES 2016 FINAL」。日本国内外のクリスチャンアーティスト全6組が登場し、4時間以上にわたって力強く福音のメッセージを叫んだ。
エクストリームツアーは、1994年に米国で始まった。日本では2013年から毎年秋に、海外のアーティストを招いて、日本のアーティストと共に約3週間のツアーを行っている。過去3回の日本ツアーでは、エクストリームツアー本場の北米からクリスチャンアーティストを招聘(しょうへい)してきたが、今回は日本の裏側、南米チリから、ロックと日本のアニメが大好きだというビクトリアノを招いた。
日本語で作詞したオリジナル曲を演奏、ウェブサイトにも日本語ページを作成してしまったというビクトリアノ。06年にチリの首都サンティアゴで、セルヒオとジェルソンのビクトリアノ兄弟によって結成されたクリスチャンのロックバンドだ。現在のメンバーは、ジェルソン(ギター、ベース、ピアノ、作詞作曲)、セルヒオ(ボーカル、ドラム)、ダミエン(ドラム)の3人。当初は母国語であるスペイン語だけで曲作りをしていたが、兄弟が幼い頃から日本の文化や日本語に深く興味を持っており、次第にオリジナル曲を日本語に翻訳するようになった。
今回のツアー最大のイベントである下北沢のライブでは、大きな体を黒い衣装で包み、ひときわ目立ったビクトリアノの3人が、訪れた観客一人一人に笑顔で手を差し出した。特に日本語が得意なセルヒオは、初来日にもかかわらず、「こんばんはー」「初めましてー、ビクトリアノと言いますー」と積極的に声を掛けた。「私はチリ人とシリア人のミックスなので、顔が怖く見えますが、クリスチャンなのです」とユーモアも織り交ぜ、オープニング前から会場全体を盛り上げた。
この日のライブは、「BUSKING SERIES 2016」と題してこの1年間、野外でのフリーライブを主な活動としてきた Calling Records にとっても集大成といえるイベントだった。トップバッターは、今年5月に Calling Records に加わった、和製ブルースロックシンガーの石川ヨナ。その細身の体からは想像も付かないほどの力強い安定した歌声で、自分自身を産業廃棄物に見立てたオリジナル曲「産業廃棄物」を歌い上げ、ボロボロの自分をまるで宝物のように扱ってくれた神を賛美した。
昨年のレコ発ライブで解散したバンド「CLOD」の元ボーカルで、現在ソロ活動を続けている三木ヒロキは、特別編成のサポートバンドと共に登場。どん底から立ち上がるためのメッセージを歌う「ソルフェイ」は、新しいギタリストの now とドラマーの Luka を迎えてから初のライブとなった。ボーカルのオオハラシンイチは、鶏のとさかをイメージしたワイルドなヘアスタイルにして、いつも以上の気合でステージに登場。日本初のクリスチャンヘビーメタルを名乗る本格的なハードロック・ヘビーメタルバンド「Imari Tones」も、「いつもやらないんだけど」との前置きで、全曲「難しい曲やっちゃおうかな」とサービス精神を炸裂させた。
さらに、8月に Calling Records に加わった一番新顔のロックバンド「Xie(サイ)」が、ハーモニカにトランペットまで取り出し、ジャンルの特定ができないような個性豊かなサウンドを響かせ、サラリーマン4人のおっさんバンドという強烈な印象を観客にたたき付けた。スキンヘッドに銀縁眼鏡、金髪に柄シャツという見た目のいかつさからは程遠く、ボーカルの Machi が口を開けば、「先祖代々クリスチャン」と教会で育ったその純朴な人柄が丸見えで、そのギャップの魅力でいっぱいの初ステージとなった。
そしていよいよ大トリとして登場したのが、ビクトリアノ。途中、ジェルソンのギターのストラップが壊れてしまうハプニングもあったが、セルヒオがMCで話す「すごーい、良かったねー」といった独特のイントネーションの日本語が会場を和ませ、終始観客の笑顔は絶えなかった。長年の夢がかなって日本に来ることができた喜びを隠すことができず、セルヒオは、胸に手を当てて何度も「本当にありがとうございまーす」と頭を下げ、新曲「悪魔のしわざ」をはじめとする全曲を日本語で歌い上げ、歓声を浴びた。
楽曲の合間には、チリの国旗をステージ上で大きく広げて、サッカーの試合でチリ代表チームを応援する掛け声「CHI-CHI-CHI、LE-LE-LE、VIVA CHILE!(チーチーチー!レーレーレー!チリ万歳!)」を会場全体で繰り返し叫ぶ姿も。そして大声で、「日本愛してるー!」。日本から一番遠い国からやって来た、誰よりも日本を愛するビクトリアノの熱い思いが、ロックミュージックという共通の言語を通して伝わった瞬間だった。
ダミエンはしばらく教会から足が遠のいてしまっているそうだが、セルヒオとジェルソン兄弟は、1日に4回祈りなさいと言われて育った熱心なクリスチャン。「本番前に楽屋で祈っていたら、ジェルソンも楽屋に祈りに来ました。彼は普通に祈るのではなくて、ギターを取り出して、抱いて祈っていました。まるでささげ物の羊のようで印象深かったです」と、実際に祈る姿を見た石川は話してくれた。
「草の根レベルでの伝道」を特徴とするエクストリームツアーは、日本でも各地の教会や路上を舞台にライブを行い、そこで出会う一人一人に福音を語ることを大切にしている。コーディネーターの中峰崇裕さんは、今年のツアーでも心に残る幾つかの出会いがあったと話してくれた。その1つが、上野よみがえり会で、ビクトリアノが2曲の賛美奉仕と、炊き出しの手伝いを行ったときのこと。
集まってきたホームレスの人々に、3人の母国語であるスペイン語が理解できる人はいないだろうと、賛美は日本語で歌った。ところが集会後、1人の老人がビクトリアノに近づいて、驚くことにスペイン語で話をし始めたのだ。聞けばその男性は、両親は日本人だが、生まれはペルーだという。「内容までは分からなかったけれど、ビクトリアノとその老人が非常に楽しそうに会話をしているのを見て、神の祝福を感じました。きっとその男性にとっても、生まれた国の言葉であるスペイン語を話すビクトリアノとの出会いは、大きな喜びであっただろうし、ビクトリアノのメンバーたちも非常に励まされた様子でした」
例年の日本ツアー以上に、クリスチャンアーティスト同士の交わりが深められ、クリスチャンでない人々との交流の機会を持つことができた「The Extreme Tour Japan 2016」の様子は、フェイスブックページで振り返ることができる。ビクトリアノは、日本ツアー閉幕後もしばらく日本に滞在して、各地を旅して回り、近いうちの再来日を約束して地球の裏側に帰って行った。