英国国教会が直面する課題は、英国人の寵愛(ちょうあい)を受ける公共機関である郵便局が直面する課題と酷似しているという。
英郵便局の最高経営責任者(CEO)であり、英国国教会の無給奉仕者でもあるポーラ・ベネルズ氏は、郵便局と英国国教会の主流派の間には多くの類似点があると指摘する。
「どちらも、全国的に多くの地域社会にケアやサポート、サービスを提供する国の機関として高く評価されています。一例として、郵便局のネットワークがもたらす社会的価値は、最近では単独で20億ポンド(約2540億円)を超えると評価されています。それなのに両者とも難しい課題に直面しています」
その課題には、「各地に散在する地方自治体に関わる機関特有の課題」と同時に、地方自治体の方向性と中央政府の方向性のバランスの問題が含まれている。どちらの機関も、将来を大切にしながらも歴史や過去の遺産を大切にするという課題に直面しており、全国の地域社会の生活の中心となる場を尊重するという課題もあった。そして何より、両者には利害関係者という大きな存在がある。
ベネルズ氏は、カンタベリー大主教公邸のランベス宮殿で行われた講演会で、キリスト者実業家連合(CABE)の関係者の前でスピーチをし、英国国教会、郵便局双方が彼女自身の生活の中心であることを「誇りに思う」と述べた。
英国の郵便局は2012年、ロイヤルメール(英国郵政社)から分離した。郵便物の配達業務などを行うロイヤルメールは民営化されたが、郵便物の受け付けなど窓口業務を行う郵便局は公営機関として存続した。
英国国教会と同様、郵便局はこの時点で顧客を失いつつあった。多くの地域社会では郵便局が使われておらず、多くの支局が閉鎖されていたが、それでも地域社会は郵便局の存続を望んだ。山のような損益を抱えた郵便局は、政府の補助金に大きく依存していたにもかかわらず、地域社会、一般顧客、郵便局長、労働組合、国会議員など、多くの利害関係者は変更に反対した。
07年から郵便局で勤務し始め、12年にCEOとなったベネルズ氏は、「私たちはわずか数年で大きな発展を遂げました」と言う。
ベネルズ氏は、郵便局が英国最大の小売業者であり、1万1500余りの支局と、週間1700万人余りの顧客を有していることを指摘した。「農村地域だけでなく、都市部においても、多くの地域社会において郵便局は唯一残された店舗になっています。そしていよいよ最後の銀行にもなりつつあるのです」。英国の郵便局では、英国内の全ての主要銀行との基本取引を行うことができる。
ベネルズ氏は、郵便局の損失額が3年前は1億2千万ポンド(約150億円)もあったが、その年の暮れには、2600万ポンド(約33億円)にまで改善したことに触れた。
この劇的な展開を達成できた理由について、ベネルズ氏はこう述べた。「私たちは問題を認識し、堅実な目標を設定し、(公共機関特有の)文化を壊し、全ての利害関係者と対峙(たいじ)し、最善策を実行に移さねばなりませんでした」。また、地域社会レベルで決定すべきことや、郵便局の業務として期待されていたことには同意しなければならなかったとし、「良くないものに取り組みつつ、良いものは歓迎」しなければならなかったと語った。
改善の鍵は、ロールモデルとして機能した知恵ある指導者たちと、影響力のある人材だったという。
「私に伝えることのできる教訓があるとしたら、顧客やビジネスパートナー、代理人、スタッフなど、全ての利害関係者に関心を持ってコミュニケーションを取ることの大切さです。コミュニケーションは、知恵をもたらすものでなければなりません。しかし同時に、システム化されていなければなりません。郵便局や英国国教会のような公共機関に見られる複雑さを煙たがるべきではありません。そして底辺に最も近い部下を、あなたに最高の知恵を提供してくれる存在とすべきです」と、ベネルズ氏は言い添えた。