四国電力(本店=香川県高松市)は12日、伊方原子力発電所(愛媛県西宇和郡伊方町)の3号機の原子炉を午前9時に起動し、翌朝の6時半に原子炉が臨界に達したと発表した。
同原発の入り口ゲート付近では、12日午前9時を過ぎると、30年以上も同原発に反対してきた、「八幡浜・原発から子どもを守る女の会」と愛媛県内外の団体からなる「伊方原発再稼働阻止実行委員会」の代表を務める斉間淳子さん(日本基督教団八幡浜教会員)が、水蒸気を排出しながら再起動した3号機を目の前にして、目に涙を浮かべながら両手で目を押さえて「悔しい・・・」と話していた。
40年以上に及ぶ伊方原発反対運動の歴史。それは、1943年生まれの斉間さんが『原発とキリスト教』(新教出版社、2011年)で著した文章「伊方原発の地元で神を呼び求める」や、斉間さんが昨年4月に伊方原発運転差し止め請求訴訟で松山地裁に提出した意見陳述書、そしてとりわけ、斉間さんの夫・満さんが「サタンの火は伊方に如何(いか)にして入り込んできたかを多くの人に知らせたい」と2002年に著した『原発の来た町―原発はこうして建てられた 伊方原発の30年』(南海日日新聞社)に克明に記されている。
しかし、その満さんは日本基督教団三瓶(みかめ)教会(愛媛県西予市)で受洗してから2年後の2006年に、そして満さんが社主を務めていた同新聞社の元記者で、原発をなくそうと病床で最期まで訴え続けた伊方原発反対八西連絡協議会事務局担当の近藤誠さんも昨年10月に、それぞれ亡くなった。
同ゲート付近で3日連続で行われたこの日の抗議行動では、午前6時半ごろより、愛媛・京都・福島・広島・山口・福井・宮崎・鹿児島・石川・東京など各地から集まった原発に反対する団体のメンバーら約150人(主催者発表)が、猛暑の中で抗議行動を実施。「再稼働反対!伊方を守れ!子どもの未来に原発いらない!海を汚すな!未来を壊すな!世界を守れ!」などと叫び、斉間さんもこれに参加していた。
一方、福島県出身の須藤昭男牧師(インマヌエル綜合伝道団松山キリスト教会)らが共同代表を務める「伊方原発をとめる会」は、12日午後4時ごろ、愛媛県松山市にある四国電力原子力本部を訪れ、須藤牧師が「伊方原発再稼働についての抗議書簡」を同本部社員に手渡し、同会事務局次長の和田宰さんがその全文を読み上げた(下記にその全文)。
同会はその後、午後6時から1時間半近くにわたって同本部前で抗議行動を行い、約150人(主催者発表)が参加した。その中で須藤牧師は、「5年前から伊方原発を止めてくださいと訴え続けてきましたが、四国電力はそれを無視して、稼働してしまいました。しかし、私たちの声を無視したのではありません。佐伯(勇人)社長以下、四国電力はまず天の声を無視したではありませんか」と強く語り掛けた。「それだけではありません。地の声、これだけの世論を無視して、人々の声を無視して、再稼働してしまったのです」
「私は、佐伯社長以下、四国電力の方々に申し上げたい。あなたがたはもう1つの声にかかっていませんか?」と須藤牧師。「私たちが四国電力に申し入れに行ったときに、玄関先に来た方にそっと申し上げました。『あなたは四国電力の役職にいらっしゃるけれども、本当に怖くないのですか? 事故は必ず起こるんですよ』。佐伯社長をはじめ、良識があるはずです。心の奥底では怖いと思いつつ、何らかの力強い勢力に屈しているに違いない。どうぞもう一度良心に立ち返って、この原発を止めていただきたいと思うのです」
「諦めないで、勝利を目指して、私たちは進もうではありませんか」と須藤牧師は参加者たちに呼び掛けて演説を締めくくった。
そして抗議声明(=下記にその全文)が同会とこの抗議行動の参加者一同によるものとして読み上げられた後、参加者たちは「伊方原発再稼働に抗議する」「伊方3号機を停止せよ」「福島を繰り返すな」「瀬戸内海を死の海にするな」という4つの掛け声を共に叫んだ。
同会は9日にも、同原発3号機の再稼働をやめるよう、愛媛県知事・四国電力・原子力規制委員会に緊急の申し入れを行っていた。須藤牧師はその日、本紙宛てのメールの中で、伊方原発3号機の原子炉再起動について、一言「悲しいことです」と記していた。
11日の午後、地元の伊方町では、原発に反対する住民・市民団体の少なくとも数十人(主催者発表では「疲れて休んでいる人たちも含めて」約120人)のメンバーが「伊方原発再稼働反対!」などと声を上げて、町役場がある中心部の通りを行進していた。ある主催者は本紙に対し、このような行動は、伊方町では7月24日に伊方原発ゲート付近で行われた全国集会を除けば、「30年ぶり」だと語った。
一方、この通りを隔てた、伊方町庁舎の向かい側にある愛媛県伊方原子力広報センターには、「原子力発電と安全性」「原子力発電の必要性」などを説明する資料が展示されている。「どうして原子力発電が必要なの?~原子力発電の必要性~」というコーナーでは、「原子力発電は、燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた効率性と安定供給性を有しています。また、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源とされています」という説明が記されている。
市民団体「瀬戸内海を守ろう会」(愛媛県八幡浜市)が7月11日から8月10日まで伊方町全域で行ったアンケート調査によると、回答した294人の伊方町の住民のうち、55パーセントは伊方原発の起動に反対、25パーセントは賛成、20パーセントはよく分からないと答えたという。一方、3月11日付の愛媛新聞(電子版)によると、同新聞が2月から3月に行った県民世論調査では、65・5パーセントが伊方原発の再稼働に否定的な意見だったが、中村時広知事が昨年10月に同意した伊方3号機の再稼働の理由に対しては51・7パーセントが一定の理解を示したという。
八幡浜港付近から西南西方向に細長く延びる佐田岬半島を走る国道255号線との接点から四国電力の原子力などに関する展示施設「伊方ビジターズハウス」と伊方原発のゲート付近へ向かう道路では、警備体制を強める警察が伊方ビジターズハウスを封鎖し、交通規制を敷いていた。
国道255号線の南を走っている国道197号線の「佐田岬メロディーライン」は、伊方原発3号機から最も近い所では直線距離で約1キロしか離れていない。同原発の付近の沖合には中央構造線断層帯と呼ばれる日本最大級の断層系が走っており、大地震や大津波で伊方原発に事故が起きた場合に、同半島に住む5千人の住民の避難は極めて困難ではないかという指摘がなされてきている。
加えて、同原発に事故が起きなくても、同原発から出る核廃棄物や、温排水による海洋生態系への影響、被ばく労働など、問題は依然として残されたままだ。
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四国電力
取締役社長 佐伯勇人 殿
伊方原発再稼働についての抗議書簡
伊方原発の再稼働に対し満身の憤りを込めて抗議します。
いま、国の耐震審査の中心にいた島崎邦彦氏が、基準値震動の「過小評価」を指摘しています。その島崎氏も注目した専門家は、伊方も「過小評価」であり現在の2倍の1300ガルを超えるはずだと指摘しています。また、伊方で免震重要棟の耐震不足が露呈するきっかけとなった留萌支庁南部地震については、620ガルどころではなく、地域地盤環境研究所の解析から1100ガル程度になるとされています。原子力安全基盤機構の解析ではM6・5の原発直下の地震が1340ガルになるとされています。伊方原発の公表されたクリフエッジは855ガルであり、どうみても深刻な破壊が始まり、急速に炉心溶融に至るとみなければなりません。
伊方の緊急時対策所の面積は福島の3分の1、炉心までの距離も170mで福島の半分ほどしかありません。MOX燃料を含んだプルームはいっそう危険です。対策所の空調に関する手順でも、希ガスを帯びたプループを避けて極めてリスキーな作業を社員に押しつけます。そして、その危険なプルームは住民にも及びます。雨でも降ろうものなら、たちまち深刻な汚染地帯が広がります。
佐田岬半島は地滑り地帯。トンネル工事の作業者は、岩盤のもろい難工事だったと語ります。熊本地震のような震度7が繰り返したらどうなるか。トンネル崩落や橋の落下、道路寸断が起こります。逃げられません。放射線防護対策施設はわずかな受入枠しかありません。住民の被ばくは避けられません。
福島をくり返してはなりません。放射能のために救援できず被災者を放置せざるを得ないむごさ。汚染土を入れたフレコンバッグは数年で劣化し新たな問題が生じます。屋外の遊びが制限される子ども達には、甲状腺ガンの不安がつきまといます。伊方原発の再稼働は、こんな状態にいつ突き落とされるかわからない状態を住民に押しつけています。なぜ、こんなリスクを私たちのふるさとに持ち込むのですか。「対策に終わりがない」と言い訳しても事故は根絶できません。原発事故は絶対にあってはなりません。
私たちは決してあきらめません。声をあげ続け、訴訟にとりくみ、必ず伊方原発をとめます。とめることは、安心して生きるうえで必然です。
伊方原発3号機の再稼働に、満身の憤りをもって抗議すると共に、四国電力は3号機の運転をとめて、廃炉に向かわせるよう強く求めます。
2016年8月12日
〒790−0003 松山市三番町5−2−3 ハヤシビル3F
伊方原発をとめる会
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抗議声明
伊方原発の再稼働に対し満身の憤りを込めて抗議する。
原子力規制委員会で耐震審査の中心にいた島崎邦彦氏が、基準値震動の「過小評価」を指摘した。その島崎氏も注目した専門家は、伊方も「過小評価」であり現在の2倍の1300ガルを超えるはずだと指摘する。伊方原発が壊れ始める数値は855ガルだったから、恐ろしい事態だ。
佐田岬半島は地滑り地帯。トンネル工事の作業者は、岩盤のもろい難工事を証する。熊本地震のような震度7が繰り返したらどうなるか。トンネル崩落や端の落下。道路も寸断され、逃げられない。放射線防護対策施設は受け入れ枠がわずか。住民の被ばくは避けられない。
原発は、壊れる限界を超えると急速に炉心溶融に至る。伊方の緊急時対策所の面積は福島の3分の1、ひどく炉心に近い。これで事故が収束できるのか?しかも、MOX燃料を含んだ事故の放出物はいっそう危険だ。
福島をくり返してはならない。放射能のために救援できず被災者を放置せざるを得ないむごさ。汚染度を入れた黒いバッグは数年で劣化し新たな問題が生じる。屋外の遊びが制限される子ども達には、甲状腺ガンの不安がつきまとう。再稼働によって、私たちの暮らしは、こんな状態にいつ突き落とされるか分からない日々となってしまう。
なぜ、こんなリスクを私たちのふるさとに持ち込むのだ。
四国電力、愛媛県、国は、ただちに再稼働をやめよ!
伊方3号機を停止せよ!
「対策に終わりはない」と言い訳しても事故は根絶できない。原発事故は、絶対にあってはならない!
私たちは決してあきらめない。声を上げ続け、訴訟にとりくみ、必ず伊方原発をとめる。とめることなしに、安心して生きることはできない。
2016年8月12日
伊方原発をとめる会