パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織「ハマス」を支援した容疑で上級職員がイスラエルから起訴された、とワールド・ビジョンが発表した。ワールド・ビジョンは世界最大のキリスト教福音主義の慈善団体で、イスラエルとパレスチナ自治区では40年余り活動している。
ワールド・ビジョンのガザ地区のマネージャーであるモハマド・エル・ハラビ氏は6月15日、帰宅途中にある検問所で逮捕された。ワールド・ビジョンによると、ハラビ氏が逮捕されたのは「いつもの会議」からの帰宅途中で、50日間拘束されたという。ハラビ氏は現在、ハマス支援の容疑で起訴されている。ハマスはガザ地区を実効支配しており、イスラエルや米国を含む幾つかの国々から、テロ集団とみなされている。ハラビ氏は2010年から、ワールド・ビジョンのガザ支部の責任者を務めており、職員としては05年から働いてきた。しかしイスラエルは、ハラビ氏は04年からハマスのスパイをしていたと主張している。
イスラエル紙「ハアレツ」によると、イスラエルの治安当局の1つであるシャバクは、ハラビ氏はハマスの軍事部門であるイザディン・アルカサムのメンバーで、ワールド・ビジョンに潜入していたと訴えている。またシャバクは、英国人らからの募金8万ドル(約810万円)相当が、ハマス関連の活動に転用されていたと主張している。
ハラビ氏の弁護士であるモハマド・マフモウド氏は、いかなる不正行為もないと強く否定している。「イスラエルは、ガザ地区で暮らす人なら誰でもハマスと結び付けます。ハラビ氏はハマスに所属していないし、協力もしていません」
ワールド・ビジョンは、「ハラビ氏が起訴されたことを知り、衝撃を受けています」とコメント。声明では、「ワールド・ビジョンは、公平と中立の人道的な原則に則っています。それ故、いかなる政治的および軍事的活動、またテロ活動をも拒否しており、貧困者、特に子どもたちに奉仕する人道支援団体として、独立を維持しています。ワールド・ビジョンは適用可能な法的要求に基づき、受け取った資金が争いを煽るのではなく、平和に貢献する方法で使われることを保証する、詳細な手続きと制御システムを採用しています」と説明している。
ワールド・ビジョンによると、ガザ地区での活動に関しては、独立した内部の聞き取り調査を定期的に行っていたという。起訴内容についてワールド・ビジョンは、「現在、私どもの入手可能な情報によると、起訴内容が真実であると信じる理由は何一つありません。私どもは、提出された証拠を精査し、証拠に基づく適切な行動を取っていきます」と述べている。
ワールド・ビジョンは、起訴に先立ち次のように述べている。「ワールド・ビジョンは、ハラビ氏を支持しています。彼は人道活動家として、また現地マネージャーおよび信頼のおける同僚として、過去10年余り多くの人から尊敬され、高く評価されています。彼は困難の中にあるガザ地区の子どもたちや地域住民に、指導者として同情心を示してきました。また自分の責任を果たすことにおいて、常にプロ意識を持って勤勉に働いてきました」
エルサレムにあるワールド・ビジョンの事務所は、ハラビ氏の逮捕後、警察から家宅捜索を受けた。シャバクは、「われわれが捜査していたのはワールド・ビジョンではなく、ハマスの活動です。ワールド・ビジョンに対しては、一切疑いを持っていません」としている。
ガザ地区のクリスチャン人口はわずかで、総人口180万人のうちの1200人前後にすぎないとされている。