オバマ米大統領は、先月開かれた伊勢志摩サミット出席後に広島を訪問。現職の米大統領が被爆地を訪れるのは、今回が初めて。1時間足らずの短い滞在中、17分にも及ぶスピーチを行い、被爆経験者と抱き合う姿は多くの人々の感動を呼んだ。スピーチの中でオバマ氏は、「広島で犠牲となった10万人を超える日本人、多くの朝鮮の人々、そして12人のアメリカ人捕虜を悼むために広島に来た」と話した。
この12人の米国人捕虜の1人、ジョン・ロング・ジュニアさんは、日本在住のネイサン・ロングさんの大叔父(祖父の弟)に当たる。ロングさんは、このスピーチをどう聞いたのか。本紙のインタビューに答えた。
ロングさんは、1967年宣教師であった父と家族と共に来日。進学のため、米国に帰国することもあったが、現在は日本人の妻と子どもたちと共に東京都内に住んでいる。
幼少期を過ごしたのは、戦艦大和が造られた広島県呉市であった。10年ほど前、NHKの記者との出会いがきっかけで、大叔父のことを調べるようになった。歴史研究家の森重昭さんとも話し、大叔父の足跡を追った。森さんとは、今回オバマ氏と感動的な抱擁を交わした男性のことである(関連記事はこちら)。
オバマ大統領の広島訪問について、「現職大統領が広島を訪問したことは良いことだと思う。日本に住むアメリカ人の1人として、素直にうれしい」とインタビューの冒頭、こう答えた。
しかし、米国側の反応を見ると、日本でこれだけ大きなニュースになっているオバマ氏のスピーチが、あまり話題になっていないことに違和感を覚えたという。オバマ氏は、来年早々に任期を終え、新しい大統領が就任する。現在、米国はその話題で持ちきりだというのだ。オバマ氏がニュースになることは、そう多くない。
「あくまで個人的な意見だが、アメリカの戦争経験者の中には『なぜ大統領が広島へ』と考える人もいるのではと思う。それだけに、今回のスピーチを聞いた最初の感想は、オバマ大統領らしい慎重なスピーチだと思った。さらに言えば、彼は『中立』でいることも忘れない。日本人被爆者、そしてアメリカで戦争を経験した人々、アジア周辺の隣国にも配慮しながらスピーチを考えたのだと思う」とスピーチ全体の感想を述べた。
ロングさんによると、スピーチ中、「アメリカ」という言葉は1、2回しか出てきていない。第2次世界大戦で戦った国に関しても「最も裕福で、強大な国家」としただけで、それが米国なのか日本なのか、ドイツなのか・・・といったことには言及していない。
米兵捕虜が犠牲になったことが大統領スピーチで語られたことについては、「オバマ大統領にとって、私の大叔父も含めて12人の存在をスピーチに入れることは必要だったのでは。日本人だけが犠牲に遭ったのではないということを強調することによって、アメリカ人犠牲者家族の感情とバランスを保つために。現に、少数だが、ヨーロッパの宣教師が広島で被爆していると聞いているが、それについてはスピーチでは述べられなかった。今回のスピーチで、大叔父のことが語られたことに関しても、子どもや身内では、もしかしたら少しは話題になるかもしれないが、それ以上でもそれ以下でもない」と冷静に話した。
岩国基地にエアフォース・ワンを着陸させ、専用リムジンを日本の道路に走らせ、多くのSPを配備し、颯爽(さっそう)と現地に向かう姿を見て、「お祭りのようだ」とロングさんは話した。
また、「どの偉大な宗教も、愛、平和、正義への道を約束する」としたスピーチの内容は、「クリスチャンとしては、少し残念。彼が、クリスチャンであると考えるアメリカ人は少ないが、こうした宗教は全部一緒・・・といった表現を聞くと、やはりクリスチャンではないのかと思ってしまう」と話した。
今後の日米関係については、「防衛面、経済面、課題は両国共にあるが、全世界が神様を見上げ、平和へと一歩ずつ近づいてくれれば」と話した。