Ⅲ. 牧師が持つべき資質・モラル&常識の具体例
ここのモラルとは、牧師が職業人として持つべき常識と思われる項目を列挙した。私見の域を出ないが、個々人によって常識の内容や範囲が異なることを承知した上で、牧師が持つ常識とこの世が持つ常識との間のズレを考察してみよう。
1. 金銭感覚(公私の区別)
(1)公金感覚を持つこと
教会の献金・会計は全て公的なお金であると認識し、使用、管理に当たっては教会や教会役員の承認、許可が必要である。
(2)会計の不正を防止する
牧師は直接的・間接的に教会会計に携わることが多い。特に、大会・中会の事業会計は大きなお金を扱うケースがあるので、担当を2人にして、公金の私的流用を防止する注意が必要だ。
(3)領収書の受領の徹底化
教会に必要な物品購入には、必ず領収書を受領する習慣を持つこと。牧師と関係担当者のなれ合いで、会計支払いに緊張感が薄れることがままある。領収書を紛失した場合は、支払いを受けないくらいの徹底さが求められる。
(4)教会の物品購入には伺いを
牧師は教会で仕事をするので、必要なものを購入する機会が多い。小さなものでも、執事会の伺いが必要だ。
(5)教会会計に強くなること
牧師は教会会計に直接タッチしなくても、お金の出入りや流れを把握していること。自らの教会会計のみでなく、大会・中会の事業会計には、日常的に動きを把握しておく必要がある。会計上、最低、抑えるべき点(毎月の収支報告、残高証明)は抑えておくこと。また担当者にまかせっきりにしないこと。
2. 異性感覚(会員との適度な距離の保持)
(1)教会は約6割が女性会員
教会は平均して約6割が女性会員である。よって、牧師は教会には女性が多いことを認識した上で対応することが重要だ。いつしか男女間の問題に発展し、戒規を受けた例がある。
(2)親密な話は禁物(過度すぎるくらいの敏感さを持つ)
牧師は女性会員との2人きりの場は極力避ける(誤解の上からも最善の注意)。特に外部から見えない部屋は禁物。必要な場合は、外から見える部屋で対応する。また、玄関ドアは開けておく。女性に安心感を与えることが肝要だ。
3. 公私混同(言葉・服装・仕事にメリハリ)
(1)時間・金銭に公私の区別を
公私の線引きが曖昧になると問題が発生する。牧師は、住居(生活)と仕事(教会)が一体化されている場合が多いので、あえて、公私の区別の認識が必要だ。特に、電気・電話・車など、金銭の公私の区別を明確にする。
(2)自己管理に徹底さを
牧師の仕事は、通常の社会人より時間的に融通の利く仕事であるが、逆にこのことが、公私の区別を曖昧にすることがある。時間が自由な職業ではなく、徹底的に自己管理が大切だ。
(3)私用には年次有給休暇の取得を
牧師は「私用」と呼ばれる個人的用事がある。牧師は、半日とか一日とか全く勤務時間を私的に用いる場合は、あらかじめ教会で決められた年次有給休暇を取得することが大切である。仮に、牧師が公的時間を私的に用い、教会や本人に何らかの事故が起きた場合、責任問題に発展する。また、年次有給休暇は、取得する前に教会役員のどなたかに連絡しておくことが望ましい。
(4)私用に教会員を動員しない
牧師は会員に奉仕を依頼することが多い。この場合、特定の会員に奉仕や相談が傾く傾向にある。個人的に何でも気軽に頼まない。頼む場合は小会・執事会から依頼することが望ましい。また、意見が一致する人だけとの会話に傾かない。会員と一定の距離を保ち、親し過ぎて、礼を逸しないこと。
4. 言動・態度(パワーハラスメントに注意)
(1)話し過ぎに注意
牧師は説教以外にも話す機会が多い。時には牧師が話題の中心になったり、話し過ぎることが多々あるので、自分自身がどれほど話しているか、わきまえることが必要だ。むしろ、相手の意見・主張をよく聞くことに心を注ぎたい。
(2)パワーハラスメント傾向にないか
牧師は相手と意見が合わないために、相手を高圧的な言葉や態度で封じ込めていないか。すなわち、パワーハラスメントの傾向にないか。また、理性のコントロールができず、感情が高まって興奮したり、激怒したりして事態を混乱させていないかなど、冷静に自己の精神状態を分析できること。
5. 時間感覚(信徒の奉仕時間に限度がある)
(1)徹底的に時間管理を
牧師の勤務時間は、企業の就業規則のように定まっているわけではないが、ある程度の時間感覚が必要だ。自分で勤務時間を設定し、緊張感を味わう必要がある。電話をしても、いつも不在にならないように、一週間の牧師行動を週報で周知しておくことが望ましい。
(2)心と体のバランス意識
牧師は年次有給休暇をきちんと取得し、心と体のバランスに心掛ける。牧師の仕事は精神的に疲労が大きいので、休暇の取得により、時にはリフレッシュが必要である。
(3)時間と相手を意識した会議
牧師は会議で議長をしたり、議論・討論をすることが多い。この場合、会議の参加者には時間の限度があるので、あらかじめ決められた時間内で処理できるように、会議議案書を事前に配布し、効率的な会議運営に努める。また論議が煮詰まらないときは、継続協議にするなどダラダラ会議を防止する。一つの方法であるが、会議は協議(相談ごと)から始め、報告は書面で行う方法もある。会議は2時間が目安かもしれない。
(4)報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)の習慣化
牧師は出張や会議で外出することが多い。そこで、所在場所や連絡手段(携帯電話の携行など)を明らかにしておくことが必要だ。牧師は教会の全責任を負っているので、いつどんな時でも、どのような場所からも連絡・報告・相談(ほう・れん・そう)ができることが望ましい。
6. コミュニケーション(心すべき一番大切なこと)
(1)コミュニケーションは一番重要
牧師は教会役員とのコミュニケーション(意思疎通)が大切である。牧師の説明が不十分だったり、独断で物事を決定することにより、役員との信頼性が損なわれることがある。普段のコミュニケーションが一番重要だ。
(2)丁寧で温かい電話応答
牧師は電話による応対が多い。電話は事務的な要件だけでなく、初めての来会者との窓口になる。つっけんどうな対応で相手に不快感を与え、教会のイメージを悪くすることがある。電話は伝道の入り口。まず、自分から名乗り、丁寧で温かい対応に心掛けよう。
7. 総合力(常識・コモンセンスとバランス感覚)
(1)以上、牧師が持つべき資質・モラルと常識を列挙してみたが、総合力として、牧師という仕事以前に、人間として、また一社会人としての常識とバランスが求められる。教会員は牧師がその常識を持っているものと考え、その上に牧師職を見ているので、牧師を理想の人間と見ている会員が多い。
教会員が牧師の現実と理想のギャップを見たとき、そこに失望を抱くことがある。我慢の限度を超えたときに教会紛争に発展する可能性がある。
(2)よって、牧師は絶えず、自己管理と自己チェックが必要であり、信頼のある牧師を相談者に持ち、絶えずチェックしてもらう必要があろう。
Ⅳ. 結論(主イエスに倣う愛・謙遜・配慮ある牧師に)
牧師の仕事は羊の群れを養うことであり、囲いの外にいる羊をも導く仕事である。伝道と牧会に使命を持ち、愛と謙遜と配慮と実行力のある牧師を理想としたい。これとは逆に、エゼキエル書34章1~10節にある「群れを散らすイスラエルの牧者」にならないよう注意したい。
(本稿は2015年10月16日、神戸改革派神学校公開講座で配布した資料。元は東部中会機関紙2013年8月号)
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豊川修司(とよかわ・しゅうじ)
1944年、仙台市生まれ。宮城県工業高校電気通信科、62年KDD入社。主に国際間の通信回線拡充、コンピュータ通信、テレビジョン伝送業務、人事・総務等を歴任。1998年、52歳で早期退職。
高3の時、日本キリスト改革派仙台教会で受洗。上福岡教会で長老職26年間。1997年、改革派神学研修所(3年3カ月)。高島平キリスト教会牧師15年、2015年7月教師引退。現在、宇都宮教会(無牧)代理牧師。主に開拓伝道・無牧の教会・東日本大震災復興などの支援。教会形成の健全な成長策・若手牧師育成・求道者を受洗に導く手法などに関心あり。神学研修所で14年間講師、川越キングスガーデン協力牧師会世話人・評議員。