日本の総人口の4割近くの方が、何らかのケアあるいはカウンセリングが必要な状態であるのに、固定観念に縛られ、心療内科に対する偏見のために受診を拒み、不眠に苦しんでいると聞きました。製薬会社が不眠解消の新薬を宣伝しますと、良く売れるのですが、問題が発生し、販売を取りやめるケースもあるようです。薬の効き目がソフトに作ってあるために、効力がないと思った人が余計に飲み、弊害が出てしまうからです。
これは私の知人の例ですが、その方はある会社の営業係長でした。中間管理職としてのプレッシャーとストレスもあったのではないかと思います。体の不調を感じ、病院に行き、受診したそうです。そうすると「あなたは自律神経失調症です。ぜひ処方する薬を飲んでください」と医者に言われたそうです。そうすると「自分は精神的な病気になるはずはありません。精神安定剤とか睡眠導入剤とか絶対に飲みません」と反論したそうです。すると医者は「あなたのその態度が症状の重さを示しています。ぜひ薬を飲んでください」と言われたそうです。
その方は医者の診断にどうしても納得が行かず、専門病院に行ったそうです。そこでは躁うつ症と診断され、「診断書を書くから、しばらく仕事を休みなさい」と言われたそうです。
結局、その人は薬を飲まず、自分が抜けたら、会社の営業に支障をきたすということで、仕事も休まなかったそうです。そして、「自分が精神的な病気になるはずがない」と言い張っていました。私は精神的な病は「心の風邪」みたいなものだと思います。誰でもかかるし、適切な処置で回復します。しかし、放っておくと重症化します。偏見を捨てて、医者の勧告に従うことは大切ではないかと思います。
更年期障害といいますと、女性特有の症状で男性には関係ないと思われていました。しかし、「男性更年期障害がある」と医学会で発表され、「男性更年期外来」を設けている病院もあります。早い人は38歳くらいから症状の出る人もいるそうです。精神的な病と症状が似ていて、間違われるケースも多いようですので、専門医の診断を早めに受けることが必要です。
昨今は売り上げの低下やリストラに苦しむ人も少ないと思います。それに加えて人間関係に関する悩みも絶えることはありません。
「すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところに来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます。わたしは心優しく、へりくだっているから、あなたがたもわたしのくびきを負って、わたしから学びなさい。そうすればたましいに安らぎが来ます。わたしのくびきは負いやすく、わたしの荷は軽いからです」(マタイ11:28~30)
「くびき」というのは古代ユダヤの農作業で用いられたものですが、パレスチナの一部では今日でも用いられています。牛とロバというように力の出し方の異なる動物でも「くびき」のおかげで力を均等に引き出すことができます。
キリストがこの「くびき」を共にかけてくださることにより、自分の力では動かせなかったものが動くようになります。
この聖句の中で素晴らしいのは「あなたの重荷」が「わたし(キリスト)の荷」に変えられていることではないかと思います。私たちが日々抱えている仕事の難題、人間関係の重荷をキリストが自分の荷として引き受けてくださり、一緒に負っていきましょうと提言していらっしゃいます。
作家であり、医者でもあったなだいなださんは、「キリストは魂の救いの問題は十字架上ですべて引き受けてくださったが、医療問題の一部は地上の医者に委ねられた」と話しています。
キリストのもとで休み、キリストに学び、信頼関係を持てる医者を見つけることも大切な課題ではないかと思います。
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穂森幸一(ほもり・こういち)
1973年、大阪聖書学院卒業。75年から96年まで鹿児島キリストの教会牧師。88年から鹿児島県内のホテル、結婚式場でチャペル結婚式の司式に従事する。2007年、株式会社カナルファを設立。09年には鹿児島県知事より、「花と音楽に包まれて故人を送り出すキリスト教葬儀の企画、施工」というテーマにより経営革新計画の承認を受ける。著書に『備えてくださる神さま』(1975年、いのちのことば社)、『よりよい夫婦関係を築くために―聖書に学ぶ結婚カウンセリング』(2002年、イーグレープ)。