私は20年間、地方教会の牧師として宣教活動に従事していましたが、教会の外にいる人々に重荷を覚え、独立してブライダル伝道を始めました。ブライダルの働きを通して地域社会と関わるうちにソーシャルビジネス(地域密着型事業)に関心を持ち、キリスト教冠婚葬祭のための株式会社を立ち上げました。ソーシャルビジネスとは、社会的課題を持続性のあるビジネスの手法で解決していく事業活動です。事業主体としては、NPO法人、株式会社、個人事業主、組合などが考えられますが、私は株式会社を選択しました。
最初は「牧師なのに会社を立ち上げるのはおかしい」という意見も耳に入ってきました。また、葬儀に際しては、新規参入の壁はとても厚く、何一つ前に進まず、起業を早まったと後悔することもありました。また、クリスチャンであるが故に、妨害や迫害もありますが、キリストにつながる立場であるからということで、支援の手を差し伸べてくださる方もいらっしゃいます。
何らかの事業を営んでいる人や責任ある立場に立たされている人は、孤独感に苦しんでいると言われます。旧約聖書に登場する預言者エリヤも孤独感を持っていました。
異教の預言者850名と一人で対決し、天から火を呼ぶという奇跡を起こし、勝利しました。しかし、女王イゼベルに追われる立場になりますと弱気になり、力尽きてしまいます。
「エリヤは答えた。『私は万軍の神、主に、熱心に仕えました。しかし、イスラエルの人々はあなたの契約を捨て、あなたの祭壇をこわし、あなたの預言者たちを剣で殺しました。ただ私だけが残りましたが、彼らは私のいのちをとろうとねらっています』」(Ⅰ列王記19:14)
エリヤは「ただ私だけが残り」と自分は独りぼっちであり、誰にも心を開けず、共に戦ってくれる人もいないと神に訴えています。
「しかし、わたしはイスラエルの中に七千人を残しておく。これらの者はみな、バアルにひざをかがめず、バアルに口づけしなかった者である」(Ⅰ列王記19:18)
日本のクリスチャンの比率は総人口の1パーセント未満といわれますが、社会のどの分野に行っても主に選ばれ、主が残してくださった協力者がいます。全ての道は閉ざされ、行き詰まったように見えても、協力者のおかげで可能性があります。
私の知人は、コンビニ事業だったら、老後も働き続けられるということで、会社を辞め、退職金と蓄えの全てを投入してコンビニエンスストアの経営を始めました。最初は順調に行っていたのですが、問題が生じました。24時間営業しなければならないのですが、深夜と早朝の働き手が見つからず、オーナーと家族への負担が大きくなりました。とても続けることは難しいということで代わりの経営者を見つけ、何とか店のオープンは続けました。
しかし、契約を中途で破棄したということで、本部から違約金として数百万円の請求がありました。どうしても払えないということで悩んでいたのですが、一人の弁護士と出会い、協力してもらうことができました。最終的には弁護士の交渉の結果、違約金は十分の一になり、払うことができたそうです。
事業を進めて行こうとすると、順調なときだけではなく、次々と試練に遭い、越えられないような壁に直面することもあります。しかし、決して諦めてはいけないと思います。主なる神は協力者を備えていてくださいます。
「恐れるな。わたしはあなたとともにいる。たじろぐな。わたしがあなたの神だから。わたしはあなたを強め、あなたを助け、わたしの義の右の手であなたを守る」(イザヤ41:10)
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穂森幸一(ほもり・こういち)
1973年、大阪聖書学院卒業。75年から96年まで鹿児島キリストの教会牧師。88年から鹿児島県内のホテル、結婚式場でチャペル結婚式の司式に従事する。2007年、株式会社カナルファを設立。09年には鹿児島県知事より、「花と音楽に包まれて故人を送り出すキリスト教葬儀の企画、施工」というテーマにより経営革新計画の承認を受ける。著書に『備えてくださる神さま』(1975年、いのちのことば社)、『よりよい夫婦関係を築くために―聖書に学ぶ結婚カウンセリング』(2002年、イーグレープ)。