20歳でプロデビューしてから7年。7月10日にドルフィンギターズのアコースティックギター専門レーベル「イルカ・ミュージック」から3つ目の最新アルバム『Welcome Home』を発表したアコースティック・ギタリストの井草聖二(26)さん。父親が牧師という家庭に生まれ、幼少から賛美歌やゴスペルに親しんだクリスチャンでもある。彼が奏でるインストルメンタルのソロギターによる驚異的なギターテクニックと、流麗な曲のアレンジ能力は、自らの信仰とどんなつながりがあるのだろうか?
2010年に米カンザス州で開催された世界規模のギターコンテストでトップ5に選ばれ、ソロ・ライブやライブサポート、テレビ・ラジオの音楽制作、ギター講師としても精力的に活動中の井草さんに、自身の信仰と歩み、ギタリストとしての特色や『Welcome Home』の内容、ライブ活動などについて話を聞いた。
賛美歌やゴスペルからインストルメンタルのアコースティックギターへ
―兵庫県で井草晋一牧師(3月末まで20年間、兵庫県川西市の日本メノナイト・ブレザレン能勢川キリスト教会牧師、4月からピヨ・バイブル・ミニストリーズ伝道者)の次男としてお生まれになって、幼少から賛美歌やゴスペルに親しんだクリスチャンだそうですが、どのようにしてギターを弾くようになったのですか? また、歌の伴奏よりもむしろインストルメンタルのアコースティック・ソロギターを弾くようになったのはなぜですか?
井草:まず、小さいころにずっと賛美歌は聞いてきて、教会も行っていましたけれど、中学生のころに人間関係でちょっとうまくいかずに、友達が全くいなくなった。中学2年生から3年生ぐらいの間にそういう時期があって、3年生になると1年間ぐらい引きこもっていたんですね。そのころは教会からも離れちゃって。思春期ともかぶって、「親への反抗=教会へ行かない」みたいなのもあったりして、全く行ってなかったんですね。でも、ある日、礼拝堂にギターが転がっていて、それを何気なく取って始めたのがきっかけでした。誰かがきっとワーシップでしまい忘れたギターが置いてあって。
―賛美歌に親しんでいたのに、なぜインストルメンタルに?
井草:それは僕が中3でギターを始めて2〜3カ月ぐらいした時に、インターネットでドイル・ダイクス(Doyle Dykes)っていうギタリスト(米国のクリスチャン・ギタリスト)を見つけて、その方がギター1本で、普段慣れ親しんだ賛美歌とか、ピアノで弾いているようなのをギターで全部弾いていたのにすごい感動して、そこからソロギターというのにはまっていきました。
―プロのギタリストになろうと決心したきっかけは?
井草:ギターを始めたころから、また教会に戻ってきてワーシップチームとかに入ったりして、そのまま賜物としてやっていけたらいいなって思っていたんですけれど、自分と似たような境遇の人がいたらコミュニケーションをとりたいなと思ったりして、中学中退レベルの学力なので、これから仕事に就くにもどうしようって悩んでいた時期があって、せっかくギターができるなら、それで何かしたいっていうのがきっかけでしたね。
―それで神戸にある音楽学校で学んだとお聞きしましたが。
井草:高校3年生の時にアコースティックギターのコンテストで賞をいただいて、「じゃ、思い切って専門学校へ行こう」というふうになりました。
―伝道者であるお父様はフェイスブックの書き込みであなたを応援していらっしゃいますね。お父様のことをどう思っていますか?
井草:やっぱり普通の家庭だと、「ギターばっかりやって」なんてみたいなこと言われると思うんですけれど、ずっと黙って見てくれていて。両親ともそうなんですけれど、僕のすることに何も言わず、すごく心配だったと思うんですけれど、反対もせずにずっと応援してくれて、ありがたかったです。
自分と同じ経験をした人との分かち合いを
―今、井草さんが最も力を入れていることは何ですか?
井草:自分自身、教会でのコンサートっていうのがすごい楽しいんですけれど、それだけじゃなくて、普段のいわゆる一般といわれている音楽活動で、それがきっかけで、やっぱり同じように学校でうまくいかない子からフェイスブックでメールをいただいたり、ツイッターで連絡くれたり、たまたまギター雑誌で読んで、こういう境遇だったんだっていうのを知ってくれて共感してくれる方がいて、どちらもバランスよくやっていきたいというのがありますね。
―井草さんはギターを神様のために弾いているのですか? それとも他に何か動機や目的はありますか?
井草:賛美をするのが目的なんですけれど、何が賜物かなと考えた時に、やっぱり自分にしか語れないところというか、同じような経験をした人との分ち合いというのが、一番大きいと思いますね。
―演奏の前にお祈りすることはありますか?
井草:それはいつでもありますね。
―今や日本でもインストルメンタルのアコースティック・ギタリストたちが数多くなった中で、他の人にはない、井草さんならではの特色や強みは何だと考えていますか?
井草:やっぱり自分自身のルーツ・ミュージックっていうのがしっかりあるなっていうのが、賛美歌を聞いてきたので、そういうところの表現は自信を持っていますね。
作品とキリスト教の信仰
―7月10日に出た最新アルバム『Welcome Home』はどんな気持ちを込めて作ったのですか?
井草:これは前のアルバムから3年以上経っていて、いろんなライブの中で弾いてきた曲を集めたんですけれど、タイトルにした『Welcome Home』は放蕩(ほうとう)息子の話(ルカ15章)から来ていて、帰ってきた時に父親が息子にかけたであろう言葉を想像しながら。あと僕がすごく大好きな『The Gospel』っていう映画があるんですけれど、息子の現代版みたいなやつで、その最後に出てきた言葉がすごく印象に残っていて。ちょうどそれを観た時期と、作り始めた時期がかぶっていたので。
―中でも1曲目「Sunday morning」は、お父様いわく「『さあ、いっしょに日曜日、教会学校と礼拝に行こう!』と誘われているようですね」とのことですが、どうなんですか?
井草:実家が教会なので、しかも僕の実家の教会が森の中で、本当に朝はきれいなんですよね。木の間から光がわーって差し込んできて、教会が照らされているような、そこに行くというよりかは、みんなが集まってくるような感覚ですよね。それがすごくワクワクするというか、そういう感じの気持ちを曲にしました。
―2曲目「Windmill」には、井草さんの信仰がどのように表れているのでしょうか?
井草:「Windmill」って風車をイメージしたんですけれども、風車って逆風じゃないと回らないじゃないですか。それをもって、悪いことを全て良くしてくださるのが神様だなっていうふうに、試練を与えてさらに信仰を高めてくれるっていう、逆風を受けたのを力にするというか、そういう気持ちを込めました。
―歌詞で表現するんじゃなくてインストルメンタルということで、それはご本人にお伺いして初めて分かるところもあると思いますけれども。
井草:ライブではなかなか曲だけでは伝わらないので、MCで言ったりとかして伝えていますね。
―このアルバムの最後の曲「light in the darkness(闇の中の光)」は、新約聖書ヨハネによる福音書1章5節をもとにして作った曲ですか?
井草:それもあるんですけど、自分の体験談とかも含めてて、すごい落ち込んでいる時の中こそ、よりイエス様が見えたというか、自分が立ち直るきっかけも与えていただいたし。
―つまり、この「light」っていうのはやっぱりイエス・キリストということですね。
井草:そうです。
―8月5日の新曲「Turn Around」は、どんな思いをもって作曲し、弾いていますか?
井草:あれはどちらかというと一般の方向けというか、クリスチャンじゃなくて、同じように不登校に苦しんでいたり、いろんな悩みを持っている方がいると思うんですけれど、クリスチャンに向けてばかりやっていると、そういうところになかなか手が届かないというか、コミュニケーションができないので。全然教会とつながっていない方とつながりたいっていう思いもあって、書いたりもしています。それからアニメソングとか、J-POPをカバーしたりとか、そういうところがありますね。
―2012年のセカンドアルバム『kokoro』の1曲目「Harvest」は、聖書とどんな関係があるんでしょうか?
井草:マタイの福音書に収穫の話がありますけれど、そこをイメージしたというよりかは、与えられたものをファーストアルバム(『Introduction』、現在は廃盤)の時はわりと“ギタリスト、ギタリスト”してて、もう精一杯やるしかないっていう感じだったんですけれど、セカンドアルバムの時は、いろいろ恵みに感謝して曲を作れたので、そういう意味で「Harvest」という曲を作りました。収穫という意味で。
―他に井草さんの信仰が表れている曲があれば教えてください。
井草:ファーストアルバムの4番目の「Advent wreath」と、(『Welcome Home』の4曲目にある)「STARDUST」は、クリスマスをイメージして書きましたね。「Advent wreath」はそのままなんですけれども、「STARDUST」は東方の博士たち(マタイ2:1、2)のことをイメージして、星を頼りに旅したっていうのからイメージを膨らませて作りました。(続く)
■ 井草聖二さんインタビュー: (1)(2)