日本基督教団曳舟(ひきふね)教会牧師の上田光正氏による新著3巻シリーズ「日本の伝道を考える」の刊行記念シンポジウム(教文館出版部主催)が9月28日、同教団銀座教会(東京都中央区)で行われた。著者である上田氏と3人の発題者を迎え、会場に集まった参加者約110人と共に、これからの日本の伝道について同書を通して考えた。
シリーズ「日本の伝道を考える」は今年4月から7月にかけて随時刊行され、第1巻は『日本人の宗教性とキリスト教』、第2巻は『和解の福音』、そして最新刊の第3巻が『伝道する教会の形成』となっている。最初にあいさつに立った発行元である教文館の渡部満社長は、同シリーズの企画段階でシンポジウムを開くことを決めていたことを明かし、「この本は、おざなりのレスポンスで終わるようであってはならない」と語った。その上で、「今日、ここに集まった方々、そして教会において、この上田先生の大作で一つの議論を巻き起こす熱意を持ってほしい」と話した。
上田氏はこの日、箴言29章18節の「幻がなければ民は滅びる」という箇所を紹介し、同シリーズを書いた出発点が、「日本の教会は幻を失っているのではないか」という思いからであったことを話した。そして、組織の問題やさまざまな課題で「疲れている」日本の教会をよみがえらせるためには、聖霊自身が起こす信仰復興運動の実現が必要だと強調。「列王記上18章30~40節で、エリヤの祈りにより聖霊の火が降り、祭壇が燃え上がり、それを見た民の信仰が回復し、『主こそ神です。主こそ神です』と言ったイメージだ」と説明し、信仰復興のためには「講壇の充実」「万人祭司」「伝道協力」が重要だと語った。
「講壇の充実」では、「説教と聖礼典」に重点を置き、キリストを中心にし、信徒がキリストとしっかり結び付くことの重要性を語った。説教で語るテキストについては、「『このテキスト』から『このこと』を語ることは、私の全生涯の最大の光栄」という熱意と情熱が生まれるまで、釈義と黙想を重ねることが必要だと強調。単に「この次の日曜日はこれを語ればいいんだな」というものであってはならないと言い、「説教を大切にしていくということが、これからの伝道する教会形成にとってはとても重要だ」と話した。
「万人祭司」については、信徒は「お客様」ではなく、キリストを主とする教会を形成する主人公であり、「神学的な『万人祭司主義』を確立する必要がある」と話した。「これは非常に難しいことかもしれないが、全教会の信徒が聖書を好きになり、よく読む習慣を身に付ければ、直接聖書から救済史を知ることになり、不可能なことではない」と指摘。「日本中のキリスト者が、聖書をもっと自分自身でも教会でもよく読むことが、信仰復興運動を起こすことの大切なポイントになる」と語った。
「伝道協力」については、「地域で伝道協力をして、ベテランの教師は若い教師が成長するように、大きな教会は小さな教会と力を合わせて伝道するというように協力していく。それぞれの小さな違いは重視し過ぎない方がいい」と言い、「つながり」と「継承」が鍵となると語った。伝道の幻を持つには、知恵と努力が必要であると上田氏は言い、「幻を持ち、信仰復興運動を10年続ければ、日本の教会は必ずよみがえる」と確信を持って語った。
この日のシンポジウムでは、東京神学大学常勤講師で日本基督教団橋本教会牧師の須田拓、青山学院大学教授で日本バプテスト連盟恵約宣教教会牧師の藤原淳賀(あつよし)、日本基督教団安行教会牧師の田中かおるの3氏が発題した。
須田氏は、上田氏が「福音の本質」を「和解の福音」という言葉で表現していると言い、「私たちは神様との和解の中に入れられている。ここに私たちの『福音の本質』がある」と話した。そして、「福音は私たちに応答させる力があるはずで、そうでなければ、使徒が全てを投げ捨て殉教を覚悟して、伝道することはなかったのではないか」と、「福音の本質」に立ち戻ることこそが伝道への熱意につながることを話した。そして、「御国の民を集めることを神は諦めておられない。一人を探し当てるために力を注ぎ、そのために『宣教という愚かな手段』を用いるとおっしゃるのだから、私たちは伝道しないわけにはいかない」と、伝道する意義を語った。
藤原氏は、2010年に南アフリカのケープタウンで開かれた第3回ローザンヌ世界伝道会議に出席した際、世界宣教の中で日本は特殊な状況であることを知り、それ以来世界宣教の視座で日本の宣教に何が必要なのかを考えてきたと話した。藤原氏は発題の中で、「愛」の重要性を語り、コリントの信徒への手紙13章から、殉教のために体を渡したとしても、神学書を読んでも書いても、説教しても、愛がなければそれは意味のない行為だと述べた。そして、上田氏が言う「公会主義」が日本の教会にとって非常に重要だと述べ、日本の教会の回復のために、「神の人格を反映した牧師になること」「教会が愛の共同体となること」「サーバントリーダーを育てること」「教会の中に若いクリスチャンをつなげていくこと」「(社会に一目置かれたい)上から目線の教会をパラダイムシフトすること」の5つを提案した。
田中氏は、日本における日常が「宗教とはいえないけれど、キリスト教とは対岸にある場合が多い」と話し、そうした日常のありようを知った上でメッセージを伝えていると語った。「平凡に生きていこうと思っている人に福音を伝えるのは難しい」と田中氏。しかし、人口の約3割がキリスト教徒だといわれる韓国のキリスト教会の歩みを取り上げ、熱心な伝道姿勢が信徒の日常生活に根ざし、それが教会の社会的信頼獲得の一つの要素にもなったと伝えた。そして、教団あるいは教会全体が一致した伝道方針を共有していたとし、それが韓国社会にキリスト教が定着した一因となったことも話した。また、韓国教会ではとりわけ信徒教育に力が入れられてきたことも指摘した。
シンポジウムに参加した30代の女性伝道師は、「いらしている人の年齢の高さに驚いたが、参加できて大変勉強になった」と感想を語った。また、一緒に参加した伝道師の友人も「自分の行っている教会しか知らなかったので、いろいろな先生のお話が聞けて貴重な体験ができてよかった。キリスト者が一致して福音を伝えることができれば、大きな伝道の力になると思う」と期待を込めた。