過激派組織「イスラム国」(IS)に対する米国などの有志連合軍による空爆で死亡したとみられていた米国の女性人道活動家カイラ・ミューラーさん=当時(26)=が、実際はISにより殺害されていたことが分かった。
クリスチャンの人道活動家であったミューラーさんは2013年8月、シリア北部の病院から出たところを誘拐された。ミューラーさんは18カ月間拘束され、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者から強姦(ごうかん)された後、今年2月に有志連合軍がISに対して行った空爆により死亡したと考えられていた。
しかし、ミューラーさんと共に拘束されたことがあり、ISからの逃亡に成功したヤジディ教徒の少女3人が10日、英BBCテレビに対し、ミューラーさんはISに殺害されたと語った。
3人の1人、アムシェさんは、ISの副官ハジ・ムタズ容疑者の性奴隷だった。彼女は、空爆によりミューラーさんが死亡したという欧米諸国の報道を、ムタズ容疑者があざけっていたと語った。
ムタズ容疑者は「バカな政府」と言い、「私たちが彼女を殺した。米国人だから殺した。もし、オバマ(米大統領)が望むなら、私たちへの空爆をやめるよう(シリアの)バッシャール(・アサド大統領)に命じることができたはずだ。私たちの女性と子どものうち10人に1人が毎日亡くなっている。これは復讐(ふくしゅう)だ。私たちは拘束した米国人を皆殺しにするつもりだ。もし欧米諸国がバッシャールに圧力をかけることを拒否するなら、私たちはその国の国民も殺す」と語ったという。
アムシェさんによると、ムタズ容疑者は、ミューラーさんが白人で、また米国籍を持っていたことから、戦利品と考えていたという。
ISは今年2月6日、制圧したラッカ郊外にあるミューラーさんが監禁されていた建物をヨルダン軍が空爆したため、ミューラーさんが死亡したと主張した。ヨルダンと米国の政府はこれまで、ミューラーさんが死んだとするISの言い分を疑問視していた。
米当局は、ミューラーさんがバグダディ容疑者から繰り返し強姦されていたと報告しており、他の2人のヤジディ教徒の少女も今回、BBCテレビに証言した。
ダラルさんとスーザンさんは、ISによって拘束され、奴隷として売られ、ミューラーさんと同じ部屋に監禁された。誘拐された当時、ダラルさんは17歳、スーザンさんは13歳だった。
2人によると、ミューラーさんはスパイの嫌疑をかけられ、爪をはがされる拷問を受けたと2人に話したという。イスラム教の祈りとコーランを読むことを強要されたが、ミューラーさんは決して本心から改宗したわけではなかったとダラルさんは語った。
ダラルさんはミューラーさんについて、「私たちにとって姉か母のようでした」と述べた。「スーザンと私が泣いていると、ミューラーさんは『いつか家に帰れる。また両親に会えるよ』と言ってくれました。とても親切な人でした。ミューラーさんがしてくれたことを、決して忘れません」と話した。
ミューラーさんは、バグダディ容疑者の内縁の妻となるために、バグダディ容疑者の家に行くよう命じられた。ダラルさんは、「カイラさんは、バグダディ容疑者が『私はあなたと結婚する。もし拒むなら、あなたの友人と同じくあなたを斬首する』と言ったと話してくれました」と語った。
バグダディ容疑者はミューラーさんに、欧米人の人質を斬首する動画を見せた。中にはミューラーさんの友人、ジェームズ・フォーリーさん=当時(40)=のものもあった。
バグダディ容疑者がミューラーさんを呼び出し、強姦して妻とした当時、少女たちは皆、ISの高官アブ・サヤフ容疑者の奴隷だった。
ダラルさんによると、ミューラーさんはその出来事の後、泣きながら共同の部屋に戻ったという。「2、3日後、バグダディ容疑者は再びカイラさんを呼び出しました。カイラさんにコーランを与え、毎日イスラム教について教えていました。彼はカイラさんに黒い服を着せ、家にいる他の男性は彼女を見ることができないと言いました」とダラルさんは述べた。
バグダディ容疑者の脅しにかかわらず、ダラルさんとスーザンさんは逃亡することを決めたが、ミューラーさんは行動を共にすることを拒んだという。ミューラーさんは斬首されることを恐れ、また白人の自分が行動を共にした場合、余計に目立つだろうと考え、ヤジディ教徒の少女たちに自分抜きで逃げるよう強く言ったという。
少女たちはイラク北部のクルド人自治区まで逃れ、救出された。なお、報道によると、ムタズ容疑者は、米軍が行った8月18日の空爆で死亡し、サヤフ容疑者は5月15日、米特殊部隊の急襲で殺害された。