【CJC=東京】中国東部・浙江省で教会堂の十字架撤去が進められていることに、キリスト者からの反発が強まっている。
反発は、昨年取り壊された教会から始まった。その教会は、建設にあたって高さ制限と規模の規制に違反したと当局が告発した後に破壊された。今では浙江省全域にわたってプロテスタント、カトリック教会から十字架を撤去するとの通告が出されているという。
信者たちは塔に登って十字架を隠すなど、規制を逃れる対策に知恵をこらしている。信徒宅の窓や自動車のミラーに小型の十字架をつるすといった工夫もされている。
今回の規制は、「地下教会」だけでなく、政府公認の教会にまで広がっている。
天主教(カトリック)浙江省恩州教区では、司教と26人の司祭が署名した公開書簡が出されたが、それには「最近、事態は切迫している」とある。政府は「違法建築を取り壊すという理由付けをやめ」、全ての教会の十字架撤去に乗り出していると言う。公開書簡は、「中国市民として、私たちはより深く、包括的な民主主義と法治を切望している」と述べている。
中国天主教愛国会と中国天主教教育委員会から出された書簡も、十字架撤去の即時終了を求めている。当局への信頼度が、十字架撤去を止められないことで損なわれていると言う。
プロテスタントの公認団体「中国基督教協会」の省支部も撤去に反対している。同支部は書簡で、この1年半で十字架1200基が撤去されたと言う。「『国を法律に従って治める』『国を憲法に従って治める』という党と国家の理想と精神に完全に違反している」と指摘した書簡は、省の宗教局に宛てられたもの。その複写は、北京の指導者にも送られた。
米ニューヨーク・タイムズ紙は、中国のキリスト教に関する著作もあるスウェーデンの学者フレデリク・ファルマンが「これは絶望から出た行動だ。公認教会までこのような反応を示したことが重要だ」と語ったと報じている。
多くが抱いている疑問は、十字架撤去の動きが、最高指導者である習近平主席の支援によるものか、またそれで拡大するかどうかだ。
米メリーランド州ロヨラ大学の政治学者カーステン・ヴァラ教授は、習主席が実権を握った2012年以来、市民の自由抑圧という路線が強化されたことに沿ったものと指摘する。
習主席はかつて、浙江省で実力を発揮した。現在の同省党書紀もかつては習氏に仕えていたとニューヨーク・タイムズ紙。キリスト者が多い他の省では同様な抑圧はまだ始まっていないと報じた。
キリスト教を研究している北京の独立調査団体のファン・ヤフェン所長は、他省の指導者が浙江省を注視していると言う。政治的負担が大きくなれば、十字架撤去に追随しないだろうと語った。
「ただ浙江省の十字架撤去の動きは拡大し、予期しない巻き返しの引き金を引いた」とファン氏。キリスト者の強い反発は、政府の予想を上回ったと言う。