東京基督教大学(TCU)教会音楽アカデミーが主催する教会音楽・神学公開講座が22日、同大チャペル(千葉県印西市)で開催された。今年度1回目の公開講座で、講師は立教大学教会音楽研究所所長のスコット・ショウ氏。「詩篇を歌う~キリスト教礼拝の中で歌われる数々の使用法について考慮~」と題し、音源や生のデモンストレーションを交えながら講演を行った。同大の神学生や教会の音楽奉仕者ら約60人が参加し、実際に声を出しながら、詩篇のさまざまな歌い方を習得した。
同大教会音楽アカデミー主任の宇内千晴さんは、講座の初めにあいさつし、「詩篇は歌だということは知識として知ってはいたが、実際に歌うことの素晴らしさをショウ氏から学んだ。学生や教会関係者にもぜひ体験してほしいと思った」と、ショウ氏を講師として招いた経緯を説明した。
ショウ氏は、オルガニストであると同時に、英国国教会音楽の聖歌隊宗教音楽を専門とする指揮者でもあり、立教大学でもチャペルの聖歌隊の指導を積極的に行っている。まず、詩篇を歌う準備として、参加者と一緒にストレッチを行ったショウ氏。「全身が楽器になるようにイメージして」と具体的にアドバイスしながら体をほぐし、会堂全体に響くような良い声の発声方法の基本を、「5分でできるショウ・メソッド」として紹介した。
聖書の詩篇を歌う伝統は、キリスト教以前のユダヤ教時代にまでさかのぼり、現在でもカトリック、プロテスタントのどちらの教会でも、教派を超えて広く歌われている。パウロが新約聖書の書簡の中で、「詩と賛美と霊の歌」によって神に歌えと命じていることからも、詩篇が非常に重要であることが分かるが、その歌われ方はさまざま。ショウ氏は、初代教会からはじめて、時代順にその歌われ方の違いを音源と実演を交えて解説した。
ショウ氏によれば、初代教会で実際にどのように詩篇を歌っていたかは、当時楽譜が使用されていなかったため、正確に知ることはできないが、その伝統を現在にまで歌い継いできたユダヤ教徒、マロン典礼カトリック教会、シリア正教会の音源から推測できるという。無伴奏、ユニゾンを基本とするこの歌い方は、一度聞けば誰にでも再現できるという良さがある。カイザリヤの教父エウセビオスやバジリウスが残した記録によると、「詩篇を歌うように」との命令が教会からキリスト者全員に出され、事実、400年ごろまでは教会だけではなく、家でも畑でも当たり前のようにして詩篇が歌われていたという。
しかし、西方教会では次第に、ラテン語を理解できる修道士や聖歌隊に歌が任されるようになり(グレゴリオ聖歌)、時代の流れとともに、専門家でないとすぐには覚えることのできない複雑な形式へと整えられていったという。さらに時代が進み、宗教改革が起きると、プロテスタント教会では各教派によって詩篇の歌い方が検討されるようになった。ルターは、詩篇の詩を母国語で歌えるように歌詞として整えたコラールを、カルヴァンは詩を韻律化した韻律詩篇歌を生み出した。また、英国国教会では、アングリカン・チャントと呼ばれる詩篇の朗唱法が発展してきた。
同じ詩篇100篇を歌うといっても、グレゴリオ聖歌、韻律詩篇歌、アングリカン・チャント、それぞれに独自の詩とメロディーがある。ショウ氏は、参加者がそれぞれの教会で実践することができるように、歌えるようになるだけではなく、どうやって歌わせるかを学ぶためのリハーサルを行った。詩篇を歌うポイントとして、「急がないこと、言葉を一つずつ味わうこと」と指摘したショウ氏の指導を受けた参加者は、少しの練習で会衆の声がそろうことを体験した。
ショウ氏は、「詩篇の歌い方には選択肢が多いということを知り、詩篇を歌えるようになりませんか」という誘いをすることが今回の講座の目的だと話した。長い歴史を持つ詩篇歌は、作曲された年代、国もさまざまであることから、耳慣れていないと違和感を覚える歌い方も多くある。どの歌い方が良いかは、人によって異なるため、所属教会の牧師と相談しながら、教会で生かしていってほしいと、ショウ氏は呼び掛けた。
教会音楽・神学公開講座の次回開催は、9月14日(月)で、11月13日(金)まで全5回が予定されている。今年度は、5回目のオルガン実技を除く全ての講座が、同大の「教会教職セミナー」と共同で行われ、教職者、音楽奉仕者をはじめ、教会関係者全員が共に学べる企画となっている。講座の前には、チャペルで「昼下がりのコンサート」も開催される(4回目を除く)。コンサートは入場無料、講座受講には講座ごとに受講料・聴講料が必要となる。詳細・問い合わせは、同大教会音楽アカデミー(電話:0476・46・1131、ホームページ)まで。