海外でクリスチャンになり帰国した日本人(帰国者)の多くは、日本の教会になじむことに困難を覚えているという。帰国者を受け入れる日本の教会、クリスチャンができることは何かを一緒に考えようと、「帰国者支援セミナー」が6日、 日本キリスト宣教団峰町キリスト教会(宇都宮市)で開かれた。主催は、同教会の「相馬裕美さんを支える会」。相馬さんは、昨年まで英国の留学生伝道団体フレンズインターナショナルで、特に日本人留学生に向けた伝道の働きに仕えていた。今回のセミナーには、相馬さんが昨年、英国で出会ったというOMFインターナショナルの英国人宣教師リズ・ジェゴさんがゲストスピーカーとして招かれ、帰国者を日本で支援する上での課題や帰国者との適切な関わり方について話した。
同会代表の松井名木(なぎ)さんが、セミナーの初めにあいさつ。「これまで、教会の中でも帰国者に関心を持ってきた人は少なかったと思う。帰国者支援への理解を深める機会としたい」と、今回のセミナー開催の意義について話した。
賛美をリードしたのは、米国在住歴20年の川田牧人さん。4年前に帰国して以来、海外で伝道された日本人のネットワークを作る、JCFN(Japanese Christian Fellowship Network)の働きを通じて、帰国者と積極的に関わってきた。川田さんは、「帰国者は日本語で賛美することに慣れていないので、新鮮に感じられたり、違和感を感じたりする」と話し、受け入れる側が「まず帰国者の気持ちを理解する」ために、「英語で賛美してみましょう」と呼び掛け、参加者は英語の賛美に挑戦した。
2010年から14年にかけて、OMFインターナショナルの宣教師として日本で宣教していたリズさんは、今年3月に家族と共に2回目の来日を果たした。特に帰国者をサポートすることに力を入れている。最初に帰国者の現状を統計から明らかにしたリズさん。日本人が海外で救われる可能性は、日本にいるときよりも70パーセント高くなり、実際、1年間で救われる日本人の6分の1が海外で救われ、毎年1600人もの帰国者が救われて日本に戻ってきているという。クリスチャンになって帰国した人だけではなく、海外でキリスト教に興味を持ったという人も含めれば、さらにその数は多くなる。しかし、帰国後2年以内に、なんと帰国者の5人に4人が、教会から遠ざかってしまっているという。
帰国者が教会を離れる理由は、海外と日本の教会の在り方に「違い」を見出してしまうからだ。それぞれの国の文化が異なるのと同じように、教会の文化も国によってまったく異なる。同じ国であっても、教団や教派によって教会文化に違いはあるが、多くの帰国者と関わってきたリズさんが、「帰国者が感じた違い」の共通点として挙げたのは、全部で8つ。▼教会の規模が小さい、▼教会員の年齢層が高い、▼キリスト教用語が難しい、▼初来会者に個人情報を書かせる、▼初来会者を全員の前で紹介する、▼牧師と信徒との関係が堅い、▼洗礼を受けていないとクリスチャンと呼ばれない、▼スモールグループがない。
同じ聖書を読み、同じ福音を信じ、同じ神に賛美をささげているにもかかわらず、その表現の仕方の違いを好きになることができず、所属教会を見つけられない帰国者が数多くいる。教会に結び付くことがなければ、いつかは神からも離れてしまう。賛美のスタイルや聖餐式のやり方といった表面的な違いは、帰国者側が調節し、合わせていくべきだとリズさんは話す。それには、努力や忍耐が必要になることもあるかもしれないが、神の助けによって必ず順応できると励ましのメッセージを語った。
一方で、帰国者を送り出す海外の教会、受け入れる日本の教会にも、この現状をよく知った上で、祈り、協力してほしいとリズさんは話す。日本人を伝道している海外のクリスチャンには、日本の文化の違い、それによる問題を知り、帰国する前から心の準備ができるように帰国者を支えてもらう必要がある。リズさんは母国の宣教師たちに、救われた日本人が帰国した後にも、「表面的な文化の違いは慣れればそれほどの問題ではないから、引き続き教会に通うように」と励ますよう伝えているという。
帰国者と関わる日本のクリスチャンには、帰国者が海外の教会に慣れ親しんでいることを理解し、日本の教会文化を押し付けるのではなく、帰国者の話に耳を傾けることが求められる。帰国者は、帰国して初めて、他宗教の葬式や仏壇、墓参りなど、聖書の教えに反する慣習というような、海外では考える必要のなかった問題にぶち当たる。クリスチャンとして日本でどう生きていけばよいのか、日本の教会には、帰国者を愛をもって正しく導く必要がある、とリズさんは話した。
リズさんの話を受けて、参加者は、スモールグループに分かれたディスカッションの時を持った。ある帰国者は、米国のクリスチャン同士は初めて会うと「いつクリスチャンになったのか?」と質問するが、日本のクリスチャンは「いつ洗礼を受けたのか? どこの教会か?」と聞いてくるという違いを感じたという。別の帰国者もそれに共感すると言い、「洗礼を受けていない自分は、ちゃんとしたクリスチャンじゃないというレッテルを貼られた気がして、部外者の感覚が長い間抜けなかった」と体験談を話した。
また、「帰国者の信仰の土台は、フェローシップになっていることがよくある」という指摘の声も上がった。限られた海外滞在の中で救われた人々は、聖書の学びもままならないまま帰国している場合が多い。規模の大きな教会の持つエネルギーに触れた勢いで、「日本を変えよう!」という高い志を抱いて帰ってくる人もいる。参加者は、「日本の教会にも敬意を払って心を開けば、関係が良くなるのだから、受け入れ合うことで一緒に日本の教会を良くしていくことができるのではいか」「お互いに聖書の言葉を実行することが大事」などと意見を交換した。
このセミナーに参加した同教会に通う年配の教会員からは、「これまで帰国者という言葉すら聞いたことがなかった」という声もあった。相馬さんは、「東京など人の多いところでは、帰国者のネットワークがあるが、都心部を少し離れた宇都宮になると、全く知られていない現実がある」と言い、「だからこそ、ここが帰国者支援の最前線だと思うと、これからへの期待がますます高まります」と明るい笑顔で話してくれた。