東京都内、千葉県内に5カ所の発達障がい者、精神障がい者のサポートセンターを展開する社会福祉法人がある。その名も、野に咲く白い花を思わせる「のゆり会」という。親子三代にわたるクリスチャンホームで育った臨床言語士の津田望さんが、障がいのある人たちのためにクリスチャン精神に基づいてつくった、心地よい居場所だ。
「のゆり会」の理事長である津田さんは、幼い頃から教会に通い、神の存在を疑うことなく育った。そして、「動物と音楽が大好きな少女だった」という。
物心ついてからは音楽三昧の日々を送り、一時は芸能界を目指したほど。現在、当時の仲間たちが、音楽の世界で活躍する様子を時折見掛けるそうだが、「私が芸能界に入らなかったのは、そこに神様の守りがあったと思う」と話す。一見華やかな世界に身を置くのではなく、クリスチャンらしい生き方を選んだことを神に感謝しているのが伝わってくる。
中学2年生の時に受洗。それからは音楽活動をやめ、とにかく聖書に従って生きていきたいと、地域の公立中学からミッション系の私立校へ転校した。そこで中学、高校を過ごした後、オーストラリアに2年半留学。この時点では、将来は英語の先生になりたいと思っていた。しかし神は、別の方向へと津田さんを導き始める。「言語学」という学問に出会ったのだ。
ちょうど、もっと社会に貢献したい、机上の学問だけではなく、困っている人、今苦しんでいる人のために働きたいと思っていた矢先の出会いだった。英国で「言語病理学」が学べることを知った津田さんは、すぐに留学手続きを済ませて渡英し、8年間を過ごした。自らを評して「思い付くと、すぐさま決断し、行動に移してしまう」と言うほど、決断力が早い津田さん。そんな、人が聞けばびっくりするような性格も、その時には家族の誰もが慣れっこになっていたという。
1986年に帰国。両親が経営する保育園で発達に障がいを持つ子どもとその保護者を対象とした相談事業を始めた。津田さんの相談はたちまち人気になり、保育園で行うには追いつかないほどの親子が訪れるようになった。そこで都内にクリニックを開設し、本格的に支援事業を始めることになった。
幼い頃、津田さんは、作文にこんなことを書き記したのを覚えている。「将来は、かわいそうな動物と、かわいい子どものためにできることをお仕事にしたい」。その思いは、数十年後に成就することになった。
障がい児の支援事業が軌道に乗り始めると、津田さんは、どこかアニマルセラピーができるような大きな土地はないか、と思い始めた。そして「農協に相談してみよう!」と思い立って電話番号を調べ、一番初めに見つけた「JAきみつ」で、木更津に1万坪の土地があると聞きつけた。すぐにその土地を見に行ったところ、高台から、木更津の街が見下ろせる自然豊かな土地が広がっていた。
その時、神がアブラハムに語り掛けた言葉「わたしはあなたにこの土地を与え、それを継がせる」(創世記15:7)が頭の中に浮かんだという。「きっとこの土地も神様が祝福してくださる」と信じ、すぐに契約。現在、そこは「のぞみ牧場学園」と名付けられ、言語聴覚士をはじめ、音楽療法士、作業療法士などの専門家がタッグを組み、0歳から就学前までの子どもたちの療育を行っている。広大な敷地の中では、犬、馬、羊などの動物を飼い、乗馬セラピーなども受けることができる。火曜日には、そこで働いている職員、利用している子どもたち、その保護者と共に外部から牧師を呼び、礼拝をささげている。
「発達の遅いお子さんがいらっしゃるお母さん、お父さんたちの中には、『どうしてうちの子だけ?』『なぜ、私ばかりこんな苦労をしなければならないの・・・』と思う方もいらっしゃるでしょう。障がいのある子が、どうしてその親御さんの元に生まれてきたのかは、誰にも分かりません。しかし、神様のなさることは全てが『完璧』なのです。ですから、そこに何か意味があるはずだと私は思います。世の中、障がいだけでなく、戦争、天災など理不尽だと思われることは数多くあります。しかし、それにも、何か神様からのメッセージが隠されていると思うのです。障がいのある子どもが大きくなり、親御さんが『私は、あの子が生まれてきてくれて、本当に感謝している』と言ってくれる時があります。嬉しいですね。卒園しても、教会のイベントに来てくださる方もいらっしゃいますよ」と話してくれた。
最後に、今の津田さんの思いにぴったりと当てはまる御言葉はあるかと尋ねると、「あなたがたの内に働いて、御心のままに望ませ、行わせておられるのは神であるからです」(フィリピ2:13)を挙げてくれた。「思いを起こさせてくれるのも神様。だから、それに疑うことなくついていけば、おのずと悩みなど出てこないのだと思います。おかげで今は悩み知らずですね」と優しくほほ笑んだ。
のぞみ牧場学園では、4月25日(土)に羊の毛刈りパーティーなどを行う予定。一般の参加も可能。詳しくは、同学園(電話:0438・53・5222、メール:[email protected]、ウェブサイト)まで。