キリスト伝道劇団新宿新生館による舞台公演「塩狩峠」が、4月19日、20日の2日間、東京都内のスタジオで行われる。公演に先立ち、12日には公開練習が日本基督教団新宿西教会(東京都新宿区)で行われた。新宿新生館の代表で演出家の西田正氏に、今回の舞台に対する思いと、同劇団の活動について話を伺った。
体験者だけが伝えられる信仰の舞台劇
『塩狩峠』は、クリスチャン作家・三浦綾子が執筆した実話に基づく小説。キリスト教信者の主人公・永野信夫が、北海道・塩狩峠の頂上付近で暴走した汽車から乗客を守るため、身をていして汽車の暴走を止める物語は、今なお多くの人々の心を打つ。過去には映画化されたこともあるが、シーンが次々に変わる小説を舞台化するのは難しく、舞台で上演したいと思いつつもなかなか実現できなかったという。
それがある時、浅田次郎の『鉄道員(ぽっぽや)』が朗読劇で上演されたのを見て、『塩狩峠』も朗読劇ならできるかもしれないと考え、脚本を一気に書き上げた。その後修正を重ねながら、現在の形になっていったという。主役の永野信夫役も今回で3代目となる。同劇団はノンクリスチャンも参加できるが、永野自身の信仰告白のシーンは、たとえどんなに演技が上手くてもノンクリスチャンでは演じられない、と西田氏は言う。
「死」と「罪」がテーマであるこの作品では、「死のある人生をどう生きるか」という問い掛けに、永野の行動を通して「死を乗り越えることができる人生」を体現していく。その中にある罪が赦された体験や、死に対する解決は、実際に体験しなければ観客に本当の意味で伝えることはできない。
醍醐味は観客との一体感
芝居を用いて伝道するためには、まず観客の立場に立って、悩みや苦しみをつかまなければならないという。観客の苦しみを分かった上で、その苦しみを信仰によって乗り越えられることを伝えることが伝道であり、三浦綾子の作品は、それが作品中に表れているという。だが、こうした伝道にふさわしい文学作品はなかなかないと西田氏は言う。
演劇の最大の魅力は、演じる側と観客が一体になれることだ。「塩狩峠」の舞台でも、永野の苦しみ・悩みが、観客の持つ苦しみ・悩みと一体化し、それを共に乗り越えていくという体験を味わえる。目で読んだり、耳で聞いたりするだけではなく、五感全てを使って、永野が語る信仰告白を受け止めることになる。
見終わった観客から、「これほどまでに主の御心を感じられるとは」「自分の愛の足りなさに気づいた」などという感想が聞かれるのは、舞台と観客が一体になっている表れだ。こうした一体感が演劇伝道の醍醐味であり、映画などでは決して味わえないと西田氏は言う。
演劇伝道に召されて40年
小学生の頃の夢は映画俳優だった西田氏。それが、大学時代に演劇に魅せられ、その後演劇の道に進むことになる。だが、学生運動の中で挫折し、新宿を飲み歩く毎日となった。そんなときに偶然、新宿西教会を見つけて入り、そのまま洗礼を受けたという。そして、演劇伝道という召しが与えられ、40年以上にわたって演劇伝道に携わったきた。
演劇が大好きだった西田氏も、劇団を作るとなると話は別だった。人集め、資金集めといったわずらわしさを考えると、どうしても二の足を踏んだ。しかし、神は1年余りひたすら西田氏にささやき続けた。結局劇団を立ち上げたものの、なかなか軌道に乗らず、牛乳配達などをしてなんとか資金を集めた。栄養失調のために倒れたことも、1度や2度ではなかった。
それでも今まで続けることができたのは、まさに「神の恵み」だと西田氏は言う。「明日こそもうやめよう」と決心すると、必ず助け手が現れるという繰り返しに、「神様に捕まっている」と感じるとともに、自分の甘さを痛感したと明かす。
新宿新生館の団員は、週に2回、仕事帰りに集まって練習をしている。練習環境はあまり好条件とはいえないが、だからこそ、何年も同じものを繰り返し演じることで完成度を高めていくのだという。もちろん、新しい試みも考えている。今後、三浦綾子の作品の他にも、遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』や『深い河』などを舞台化していく予定だとう。
キリスト伝道劇団新宿新生館 舞台公演「塩狩峠」
日時:4月19日(日)午後4時開演 20日(月)午後1時・同6時開演
場所:新生館イプセンスタジオ(東京都板橋区中板橋19−6 ダイアパレス中板橋B1)
チケット:当日2500円、前売2000円
チケット予約・問い合わせ:
電話:090・8940・2274(西田)
FAX:03・5943・9559