「キリスト伝道劇団新宿新生館」「日本宣教演劇学校」「劇団ぶどうの木」「イプセンを上映する会」「劇団テアトロ<海>」と5つの劇団・演劇学校で神の愛を証しする劇を演じ、教えると共に、一流の演劇家としての技術を磨く一人のクリスチャンがいる。安保騒動真っ最中の学生時代、学生運動の衰えとともに、自身の行き方にすっかり自信を失っていた中、「何事でも、自分にしてもらいたいことは、ほかの人にもそのようにしなさい」(マタイ7:12)というイエスの教えに感動してキリスト者となった西田正さん(日本基督教団新宿西教会会員)だ。
西田さんは、自分の一番好きな演劇を通して福音を伝えることが自身の使命だと思い、キリストの愛を証しする劇団を始めた。学生時代に演劇を学んではいたものの、劇団を立ち上げることには少なからず戸惑いがあった。だが、教会の牧師から「神様の御心なら続けさせてくださる。しかし、神様の御心でなければ辞めさせてくれる。だから、とにかく示されたらやってみなさい」という言葉で勇気付けられた。
劇団名は、「キリスト伝道劇団新宿新生館」。新宿新生館とは、新宿で新しく生まれた者たちの「館」という意味。ポスターなどで劇団の参加者を募り、初めは西教会で行われていた伝道集会「アガペー・イン」で、毎月1回のペースで公演した。しかし、毎月の公演というのは並大抵のことではない。2週間で脚本を書き、キャストを決め、もう2週間で練習して本番。それが毎月続くという過酷さで、気がづけばほとんどの人がいなくなっていた。
「『御心でなければ神様はやめさせてくださる』と言ったが、辞めさせてくれなかった。お金にならないし、生活も苦しい。人は去っていくし、明日食べるお金もない。『お金にならない。辞めさせて欲しい』と祈ったこともある」と西田さん。時には日雇労働でお金を稼いだ時もあった。しかし、苦しい時にはいつも何らかの助けが与えられて34年間活動を続け、今年5月には記念すべき100回目の公演を行った。
約5年前からは、伝道のために演劇の専門的技術を備えた人々を育てようと、日本宣教演劇学校をスタート。他人からの発案でもあり、初めは演劇学校の必要性をそれほど強くは感じなかったと西田さんは語る。しかし、いくつかの教会から演劇の公演や指導の依頼を受ける中で、宣教において演劇が必要とされていること、また演劇に関する専門的な技術を教える必要があることを強く感じるようになった。現在、日本宣教演劇学校の授業は週1回、生徒は4人と規模は小さいが、「これから生徒をもっと募集して本格的にやっていきたい」と熱意を語る。
西田さんに演劇の指導を依頼した教会の一つに、横浜の本郷台キリスト教会(日本福音キリスト教会連合、池田博牧師)がある。今から約4年前、同教会の青年向け礼拝で演劇を行う「劇団ぶどうの木」を指導して欲しいと連絡が来た。舞台にある楽器類をパネルで隠して観客には演劇に集中してもらう、公演中は会場の明かりを消すなどの基本的な指導から始め、昨年12月には横浜の関内ホール(横浜市中区)という1100人収容の大ホールで、ベトナム戦争を取り上げた演劇「約束の丘」を公演した。
西田さんは、演劇家としての技術をさらに磨くため、近代演劇の創始者であり、シェイクスピア以後世界で最も盛んに上演されている劇作家として名高いヘンリック・イプセン(1828〜1906)の作品を演じる「イプセンを上演する会」も設立。現在、年に3回の公演を行っている。また、キリストを証する良い台本がなく、自分で台本を作成するために演出についても学ぼうと、演出家として著名な松浦竹夫(1926〜98)に師事。現在、同氏の弟子たちによる「劇団テアトロ<海>」で代表も務める。約7年前からは、ハンセン病患者にキリストの愛を伝えたベルギー人神父の一生を描く一人劇「ダミアン神父の生涯」も毎月1回のペースで演じている。
「もっともっとやっていかなければいけない。使命がある。日本の教会のために、兄弟姉妹のために、あるいは新宿の人たちのために。」「演劇をやっている教会があれば協力していきたい。」
活動に関する問い合わせは、西田正さん(電話:03・3962・2425、090・8940・2274、住所:〒173‐0016東京都板橋区中板橋25‐8 原荘2階)まで。