情報を伝える。その方法は時代と共に進化し洗練され、そしていつしか文化になっていく。IT社会と呼ばれる現代では、あらゆる形態の情報が、さまざまな「メディア」を通して伝えられている。その中でも、視覚、聴覚の両方に訴え、魅力的なストーリーで人々の関心を捉える「映像」は、最もインパクトのある表現方法の一つだ。その「映像」の難しさや醍醐味を、期待の若手映像ディレクター、Katsu Kim Ferreira(カツ・キム・フェヘイラ)さんに聞いた。
Katsu さんは、映画のメイキングやドキュメンタリー、プロモーション映像などを主に手掛けており、著名なものには、渡辺謙主演の日本版『許されざる者』や、栗山富夫監督がメガホンを取り、中村雅俊の主演で話題を呼んだ『ふうけもん』などのメイキング映像がある。
Katsu さんが映像に興味を持ち始めたのは、まだ小学校低学年の頃。家庭は決して裕福ではなく、四畳半の部屋で母と2人で生活を送っていた。時にはお金がなく、リンゴ1個で過ごさなければいけない時もあったが、そんな状況でも必ず、母と一緒に映画だけはいつも見ていたという。その中でも特に夢中になったのが、チャールズ・チャップリンの映画だったそうだ。「幼い頃は彼の作品を見て腹を抱えて笑って育ちました。あまりにも面白いので遊びに来た友達に見せて、いつしか彼らが笑っている姿を楽しむ自分に気付いたのです」。幼い時から、映像そのものを楽しむだけではなく、映像で人を楽しませることを自然としていたのだ。
大学は日本大学芸術学部に進み、映画制作を専攻。そこでも、チャップリンを学んだ。「彼の笑いの中には、実は力強いメッセージが込められていました。特に独裁者が分かりやすく表現されています」と、チャップリンの魅力について語る。
代表作の一つ『独裁者』は、床屋の主人がヒットラーに間違えられ、最後に平和を訴えるスピーチをするというあらすじ。当初書かれた脚本では、床屋の主人の結末に触れるシーンもあったが、あえてカットされたそうだ。「チャップリンは、強いメッセージを持っていたけど、それを押し付けることなく評価を観客に委ねていました。笑いは取るけど、インパクトを損なわず考えさせる見せ方に引かれました」と Katsu さんは言う。自身の作品へのポリシーについても、「どう受け取るかは観客次第で、僕は個人的に『俺の話を聞け!』という風にはなりたくないし、見た人が感じたり、考えてほしいと思っています」と語る。
Katsu さんがクリスチャンになったのは2011年。親友を自殺で亡くし、お互いの夢だったハリウッドへ行くことを果たすために彼の遺骨を持って渡米した。そこで出会ったのが、タイムズスクエア・チャーチ(Times Square Church)という教会だった。その教会は、以前から持っていた教会のイメージとはかけ離れていたと Katsu さんは語る。
「みんなが踊りながら歌って、楽しそうで明るくて、僕が持っていた教会のイメージが完全にひっくり返りました。ワーシップソングを聞いて、神様というお父さんの存在を知り、親友の死で心にぽっかり空いた穴が埋められた思いで、ボロボロ泣きました」と当時を振り返る。そしてクリスチャンとして、『ベン・ハー』のような力強いメッセージを持った映画を作っていきたいと思うようになったという。
映像を制作することにとても緊張感を持って臨んでいると Katsu さんは言う。彼は以前見たニュースを例に、「“事実”と“真実”は違う」と訴える。それは当時54歳の息子が年老いた母を殺したという事件だが、大概の人は報道された一部の“事実”のみを見て、息子を殺人犯として非難してしまうだろう。しかし、“真実”は、寝たきりの認知症の母を介護できなくなってしまい、心中しようとしたというものだ。結果、裁判では異例の執行猶予付きの判決が言い渡されたという。
「人は良くも悪くもメディアから伝わってきた“事実”だけで判断してしまうし、映像は全てを一目で伝える強い影響力を持っているからこそ、常に作り方には気を配ります」と、映像制作の難しさを明かす。だからこそ見終わった後に、結局何を伝えたいのか分からなかったり、何も得られない作品ではなく、見終わった後に希望を得て、新しい価値観と世界を知るような映像を作りたいと話す。
また、現在の映像制作の現場について、スタッフがやらなければならない「作業」として制作している現状があると語る。しかし、「やっぱり映画は、エンターテイメント。異論はあるかもしれないけど、僕はそう思います」と Katsu さんは言う。聖書にも「いつも主にあって喜びなさい。もう一度言います。喜びなさい」(ピリピ4:4)という言葉があるが、彼は自分の仕事を「作業」としてこなすのではなく、喜びをもって行うのが重要だと言う。
「おもちゃ職人が怒りながらおもちゃを作っても、きっと良い作品はできないでしょう。ハリウッドなどでは、ビジョンを持って『やりたいからやる』という情熱がある人たちが作っているからこそ、クオリティーの高いものができる。だから作り手も楽しまないと、それを伝えられないと考えてます」
Katsu さんは昨年、映画『ふうけもん』の全国上映で全国を縦断した。そこでさまざまな企業の社長や教会の牧師と会ったが、感じたのは、映像を必要としている人たちが多いということ、また映像という難しい分野になかなか手を出せないでいる状況があるということだった。
「メディアを通して人が情報を得る時代だからこそ、今はもっとインパクトのあるクオリティーの高いメディアが注目されていくと思う。だからこそ、僕は自分の与えられたギフト(賜物)を通して、教会や学校、企業、個人、またさまざまなミニストリーなど、クリスチャンの活動をさらに手伝っていきたい」と Katsu さんは力を込める。そして大きなビジョンとして、「映像を通して、『全てのものは神様によって創られ、神様のために創られた』(コロサイ1:16)と書かれている真実を人々に伝えたい」と語ってくれた。活動の詳細はホームページで。